よつは

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7/30/2023, 12:20:52 PM

『澄んだ瞳』
翔真
ガキの頃から好きになる奴の条件は決まってた。それが満ちてりゃ女も男もどっちでも良かった。
「翔真〜私とかーえろっ!」
翔真の腕にしがみついてきた少女は花梨。どうにも翔真の事が好きらしい。
「花梨、離れろ、あちぃ」
そう言って引き離そうとすると更にしがみついてくる。
うざってぇと思いながらも俺は普通の男を演じた。
「いいから離れろ」
「え〜、げ、あいつ…」
花梨があいつ、と言って一方向を見つめた。目線の先に居たのは目を前髪で隠され、明らかにダボダボなYシャツを纏った青年が本を抱えて歩いていた。
その瞬間、翔真はこころを打たれたように彼に釘付けになった。「俺の理想じゃねぇか…」ぼそっと呟き、目で追った。
「ん?翔真何か言った?」
「いや?何でも無ぇ」
(あいつ、俺の想像そのものじゃねぇか。誰だ…聞いてみるか)
「なぁ、あいつ誰だ?」
自然に、違和感なく、聞いた。
「え、翔真知らないの?紅葉だよ、篠生紅葉。先週、私に告って来た奴だよほんっといい迷惑アンタみたいな陰キャ、微塵も興味無いっつーの!」
「あぁ…」(篠生紅葉…か、仲良くなっときてぇな)


紅葉
小さい頃から巻き込まれ体質って奴だった。駅の人混みで足を取られて知らないところに着いたり、委員会でなぜか違う委員会員と間違えられて最後まで仕事しちゃって当分気づかれなかったり…なんてまだ甘い方。
でも流石に、ちら…
ジーーーーー… バッッッッ!!!
クラス1の陽キャ、矢附翔真に壁ドンされるなんて思わなくない!?僕は何かした!!??
「あ、あの…「お前、女いんの?」「なっなんでッッッですかッッッッッ!」
説明面倒くせぇ押し倒してやっちまいてぇ。けど、こいつ細すぎだろ折っちまうぞこんなん…
まぁでも、
紅葉の顔を掴み、覗き込む。
「お前の目、良いな」
澄んだ瞳が美しく輝く。俺だけの物にてぇな。

7/30/2023, 6:19:48 AM

テラスで本を読んでいた。大きな風に髪がなびく。地元の公民館の売りは図書室。様々な人が利用するそこは子どもたちが遊ぶ声だけが響く、微笑ましい。今朝のテレビで嵐が来る…なんて予報だったから本の続きは家で読もう。今は夏休み、宿題はお昼ごはんを食べる前に済ませたのでプールにでもいこうとしたが、一雨来るのなら止めておこう。取り敢えずこの本を借りようか。
図書カードを取り出し、受付に向かう。
「すみません、貸し出しでお願いします」
受付のお姉さんに声をかけてカードを受け取る。
「じゃあ2週間の貸し出しね、って夏菜ちゃんは知ってるか。常連さんだもんね」
お姉さんは夏菜にそう言って笑って本を手渡した。
「そういえばさっき斗亜ちゃんの自転車が停まってたから工作室にいると思うわ」
「はーい」(斗亜が?自由課題でもやってるのかぁ)
工作室に向かって斗亜を驚かせてやろうと抜き足で近づく。
「お、斗亜が何か作ってる…やっぱり自由課題」
にししッと笑いながら息を殺してドアを開けると斗亜の姿が見当たらない。どこ行った?と、キョロキョロしてると背後からドーンと斗亜がぶつかった!
「夏菜!やっほ!!」「きゃっ!?」
思わず二人とも倒れて笑っていると受付のお姉さんが歩いて来た。
「二人とも、元気なのは良い事だけど、あまり騒ぎ過ぎない事!勉強してる人もいるんだから」
「はーい」
「あ、はは…ごめんごめん奈緒姉ぇ」
もう、と呆れたように見下ろす。


今日はもうすぐ雨が降るとか。嵐が来るとか。2人は自転車に乗って夏菜の家に向かった。道中雷が鳴っていたので間に合うのだろうか。