「終わらせないで」
宿題の〆切が今日だと気づいたのは
夜10時、冷めたコーヒーを前にした瞬間だった
終わらせないで、この平和な時間を
そう心で叫びながら、手は無情にも
ノートを開き、鉛筆を走らせる
「この問題、何回見ても初対面じゃん?」
自問自答が深夜の静寂を破り
答えの見えない公式に向かって
根拠のない友情を築き始める
終わらせないで、もう少し夢を見させて
いや、ちょっと待って、本当に夢に逃げたい
だけど明日の先生の視線がちらついて
目覚ましよりも早く、心が覚醒する
そして朝、提出されたプリントには
謎の解答と「すみません」の文字が踊る
終わらせないで?
…いや、もう終わらせてほしい。
「愛情」
愛情って、計算できない
だって、あなたを見ただけで
心臓がダンスを始めるんだから
そんなの、どうやったら予測できるの?
たまに、会話が終わらなくなる
「じゃあね!」って言おうとしたら
また何か思いついちゃう
でも、気づけばそれが楽しくて
時間なんて、あっという間に過ぎちゃう
結局、愛情って
理屈じゃなくて、心が跳ねる瞬間
どんなにバカなこと言っても
その時間が、幸せだって思うんだから
微熱
胸の奥に灯る小さな熱
冷ますことも、燃やし尽くすこともできずに
曖昧なままで揺れている
風が吹けば消えてしまいそうで
手のひらでそっと守ったけれど
その温度は、痛いくらいに僕を焦がす
言葉にすれば壊れそうで
黙れば溢れそうで
ただ、微熱のままでいる
いつかこの熱が名前を持つ日まで
僕はそっと、この心の中で育てるんだ
太陽の下で
久しぶりに外へ出て、太陽の下に立った。
明るい光が肌に触れる感覚は、
思った以上に心地よかった。
風が吹くたび、木々が揺れ、
その隙間から光がちらちらと動く。
当たり前だと思っていた景色が、
少しだけ特別に見えた。
太陽はいつもそこにある。
でも、それに気づくのは決まって、
少し疲れたときか、立ち止まったときだ。
そんな当たり前の光景が、
ただ少し眩しいだけで、
心が軽くなるのだから不思議だと思った。
セーター
おばあちゃんが編んだセーター、
色は少し淡くなって、
でもその温かさは変わらない。
手のひらの記憶が、
今も編み目に残っている。
着るたびに思い出す、
おばあちゃんの優しい声。
「寒くない?」と言って、
手を伸ばしてくれたその手が、
今はもう遠くに感じる。
でもこのセーターがあれば、
少しだけおばあちゃんが近くにいる気がして、
ふと、涙がこぼれそうになるけれど、
それもまた、温かい記憶だから。