シンビジウム

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3/6/2025, 8:01:09 AM

【question】

夜の記憶がない日がたまにある。
ご飯を食べてお風呂に入れば、そこからの記憶がない。
でも、目覚めたときにはベッドにいる。
寝た記憶がないのに。
着ていたはずの服が変わっていたり、物の配置が変わっていたりした。

さすがに恐ろしくなって、起きているように努力もしてみた。
それでもいつの間にかベッドで眠っていて、朝が来ているだけ。
朝焼けを眺めながら、ため息をついた日のことは忘れられない。

「どうしたらいいんだろう…」

ずっと頭の中にある可能性があった。
それだとすれば、すべての辻褄が合う。
認められないのは、怖いからだろうか。
目を背けたいからだろうか、自分自身が。

「自分って、なに…?」
                       fin.

3/5/2025, 6:54:58 AM

【約束】

「勝ちたい」

彼の目に映っていたのは、常に今じゃなくて未来だった。
立ち止まっている瞬間はなく、走り続ける。

「勝ちたいね」

去年の今頃、『僕らなら勝てます』と言い切った彼についてきた。
いや、喰らいついてきた。
誰よりも前のめりで、変革を怖がらない彼に。

「誰も見たことない景色見よう」

自らがヒールになることにもなんの躊躇いもなかった。
どこまでも孤独で孤高だった。
誰にも止められなかった。
彼にとって唯一無二で、証明だったのだと思う。

「どんな景色なんだろうね」

緊張で強張った顔が和らいだ気がした。
                       fin.

3/4/2025, 9:59:14 AM

【ひらり】

ひらりとプリントが落ちる

それを拾う人が優しいとされる世界で

それを拾う勇気も出ない自分

3/3/2025, 9:56:41 AM

【誰かしら?】

「帰りたい」

学校でも、

「帰りたい」

家でも、

口癖のように止まらなかった。

「そんなに家好きなのかよ」

と、友達に笑われても、

「どこに?」

と、親に不審な目を向けられても、

消えなかった。

どこに、誰が、帰りたいのだろう。
                       fin.

3/1/2025, 9:56:02 AM

【あの日の温もり】          
          『暗愁』

「なんでこんなことしてるの」
 
 赤く染まった彼の手首を見て、頭が真っ白になった。思わず言葉が口を突いて出た。

「ねぇ、なんで」
「…なんで、気づいちゃうかなぁ」
 
 意味がわからなかった。顔色一つ変えない彼にも、自分を傷つける彼にも。

「いつもは、ちゃんと隠してるんですけど」
「そういうことじゃなくて」
 
 ぱっと顔が上がった。やっと目が合う。指先が小さく震えていた。

「…怒ってます?」
「怒ってるよ」
「ごめんなさい」
 
 自分の伝えたいことが半分も伝わっていないようで、ひどくもどかしかった。

「そうでもなくて…」
 
 ため息を吐く。言いたいことはたくさんあったのに、何を言ったらいいのかわからない。
                       fin.

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