【あの日の温もり】
『暗愁』
「なんでこんなことしてるの」
赤く染まった彼の手首を見て、頭が真っ白になった。思わず言葉が口を突いて出た。
「ねぇ、なんで」
「…なんで、気づいちゃうかなぁ」
意味がわからなかった。顔色一つ変えない彼にも、自分を傷つける彼にも。
「いつもは、ちゃんと隠してるんですけど」
「そういうことじゃなくて」
ぱっと顔が上がった。やっと目が合う。指先が小さく震えていた。
「…怒ってます?」
「怒ってるよ」
「ごめんなさい」
自分の伝えたいことが半分も伝わっていないようで、ひどくもどかしかった。
「そうでもなくて…」
ため息を吐く。言いたいことはたくさんあったのに、何を言ったらいいのかわからない。
fin.
3/1/2025, 9:56:02 AM