【きらめく街並み】
彼の最寄駅で電車を降りて、二人で並んで歩く帰り道。
「あ、」
何かに気がついた彼が声を上げた。
その目線の先を辿ると、きらきらとしたイルミネーションが辺りを照らしていた。
「綺麗」
厚手のコートに身を包み、両手をコートのポケットに突っ込む。
何日か前から着ているそのコートは、去年クリスマスプレゼントとして渡したものだった。
彼に似合う紺色のコート。
「綺麗だね」
私の首元に巻いているマフラーは、彼が去年プレゼントしてくれたもの。
少し派手な気がして、巻くのを躊躇してしまう深い赤色。
それでも、これを巻いているときの彼はどこか機嫌がいい。
「ねぇ、今年のクリスマスはどこ行こっか?」
イルミネーションを見上げながら、思わずそう言っていた。
【贈り物の中身】
「今日誕生日だろ。おめでとう」
ポンと渡された袋は案外重たくて、思わず顔を見上げてしまった。
誕生日当日の仕事。
少なからず憂鬱になっていたそのときに、プレゼントをもらうなんて思っていなかった。
「え、誕プレ?」
「まぁ、そうとも言う」
「そうとしか言わないんだけど。どしたの、僕の誕生日知ってたの?」
気まずそうに目をそらす。
「……たまたま、お前によさそうなものがあったから買ってきただけ」
たまたま、なんて嘘だろう。
バレバレの嘘がかわいらしい。
「そう。ありがとう」
そう言うと、ほっとしたように息を吐いた。
それにしても綺麗に梱包された袋。
僕に渡すような装飾じゃなくて、そわそわする。
こんなふうにして渡すやつだったのだろうか。
ただの仕事仲間。
彼との関係を言葉にするなら、それ以上でもそれ以下でもない。
休みの日に遊びに行くようなこともないし、僕は彼の誕生日すら知らない。
「開けていい?」
ピンクの結び目を解くと、重厚な箱が顔を出した。
その箱も開ければ、
「あ、これ……!」
一本のボールペンが静かに佇んでいた。
僕がいつも使っているブランドのボールペン。
最近限定色が出たって彼に話したんだっけ。
「いいの?こんなにいいやつ」
「いいんだよ。喜んでくれてよかった」
弾けるような柔らかい笑みを浮かべた。
素っ気なさとは裏腹の笑顔がかわいらしい、といつも思う。
僕には真似できないその優しさに、いつまでも溺れていたい、と願う。
「ありがとう」
もう一度つぶやくと、恥ずかしそうに背を向けた。
貰ったばかりのボールペンを胸ポケットに入れる。
彼の誕生日がいつなのか、昼休みに聞いてみよう。
【心の迷路】
ぐちゃぐちゃの心の言葉を吐き出せるのは、スマホの
メモの中だけだった。
ぐちゃぐちゃだったものがなんとなく整理されていく
のを感じて、わずかに安心した。
整理されても、消えるわけではない。
夜中にこぼした涙が消えるわけではない。
帳消しになるような魔法が存在すればいいのに。
今日も消えないため息をついて、変わらない日々を投げ捨てる。
【おもてなし】
「お茶、どーぞ」
「あ、ありがとう」
「それで、話って?」
にこりとも口角を上げずに、まっすぐ目を見つめた。
身体が強張る。唾を飲み込む。
背筋が伸びる気がした。
「……好きです。付き合って、くれませんか」
頭を下げて、目をつぶった。
顔が熱くなる。耳だけ取れそうなほど熱い。
「……あのさ、」
ため息をつきそうな、呆れたような声が響く。
パッと顔を上げれば、お茶の水面が揺れていた。
「私がだめって言うとでも思った?」
「……え」
「ずっと好きだよ」
照れたように笑った。
やっぱり、笑顔が似合う。
太陽のように明るくて、月のように美しい。
「これからも、よろしく」
【揺れる羽根】
「生まれ変わったら、何の鳥になりたい?」
そう何の意図も持たずに聞いた言葉が、案外しっかり返ってきた。
「カワセミかな」
「カワセミ?」
思わず聞き返す。
「だってカワセミって、なんかかわいいし。じっと獲物を見定めて捕る感じがかっこよくない?」
「……たしかに」
木の上でふわりと羽根が揺らいだ。
「あなたは?」
「……人間になりたい」
「ちょっと、僕は答えたのに」
「……じゃあ、内緒」