シンビジウム

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12/6/2025, 8:17:05 AM

【きらめく街並み】

彼の最寄駅で電車を降りて、二人で並んで歩く帰り道。

「あ、」

何かに気がついた彼が声を上げた。
その目線の先を辿ると、きらきらとしたイルミネーションが辺りを照らしていた。

「綺麗」

厚手のコートに身を包み、両手をコートのポケットに突っ込む。
何日か前から着ているそのコートは、去年クリスマスプレゼントとして渡したものだった。
彼に似合う紺色のコート。

「綺麗だね」

私の首元に巻いているマフラーは、彼が去年プレゼントしてくれたもの。
少し派手な気がして、巻くのを躊躇してしまう深い赤色。
それでも、これを巻いているときの彼はどこか機嫌がいい。

「ねぇ、今年のクリスマスはどこ行こっか?」

イルミネーションを見上げながら、思わずそう言っていた。

12/3/2025, 8:59:07 AM

【贈り物の中身】

「今日誕生日だろ。おめでとう」

ポンと渡された袋は案外重たくて、思わず顔を見上げてしまった。
誕生日当日の仕事。
少なからず憂鬱になっていたそのときに、プレゼントをもらうなんて思っていなかった。

「え、誕プレ?」
「まぁ、そうとも言う」
「そうとしか言わないんだけど。どしたの、僕の誕生日知ってたの?」

気まずそうに目をそらす。

「……たまたま、お前によさそうなものがあったから買ってきただけ」

たまたま、なんて嘘だろう。
バレバレの嘘がかわいらしい。

「そう。ありがとう」

そう言うと、ほっとしたように息を吐いた。
それにしても綺麗に梱包された袋。
僕に渡すような装飾じゃなくて、そわそわする。
こんなふうにして渡すやつだったのだろうか。

ただの仕事仲間。
彼との関係を言葉にするなら、それ以上でもそれ以下でもない。
休みの日に遊びに行くようなこともないし、僕は彼の誕生日すら知らない。

「開けていい?」

ピンクの結び目を解くと、重厚な箱が顔を出した。
その箱も開ければ、

「あ、これ……!」

一本のボールペンが静かに佇んでいた。
僕がいつも使っているブランドのボールペン。
最近限定色が出たって彼に話したんだっけ。

「いいの?こんなにいいやつ」
「いいんだよ。喜んでくれてよかった」

弾けるような柔らかい笑みを浮かべた。
素っ気なさとは裏腹の笑顔がかわいらしい、といつも思う。
僕には真似できないその優しさに、いつまでも溺れていたい、と願う。

「ありがとう」

もう一度つぶやくと、恥ずかしそうに背を向けた。

貰ったばかりのボールペンを胸ポケットに入れる。
彼の誕生日がいつなのか、昼休みに聞いてみよう。

11/13/2025, 9:03:02 AM

【心の迷路】

ぐちゃぐちゃの心の言葉を吐き出せるのは、スマホの
メモの中だけだった。

ぐちゃぐちゃだったものがなんとなく整理されていく
のを感じて、わずかに安心した。

整理されても、消えるわけではない。

夜中にこぼした涙が消えるわけではない。

帳消しになるような魔法が存在すればいいのに。

今日も消えないため息をついて、変わらない日々を投げ捨てる。

10/29/2025, 9:59:24 AM

【おもてなし】

「お茶、どーぞ」

「あ、ありがとう」

「それで、話って?」

にこりとも口角を上げずに、まっすぐ目を見つめた。
身体が強張る。唾を飲み込む。
背筋が伸びる気がした。

「……好きです。付き合って、くれませんか」

頭を下げて、目をつぶった。
顔が熱くなる。耳だけ取れそうなほど熱い。

「……あのさ、」

ため息をつきそうな、呆れたような声が響く。
パッと顔を上げれば、お茶の水面が揺れていた。

「私がだめって言うとでも思った?」

「……え」

「ずっと好きだよ」

照れたように笑った。
やっぱり、笑顔が似合う。
太陽のように明るくて、月のように美しい。

「これからも、よろしく」

10/26/2025, 9:53:49 AM

【揺れる羽根】

「生まれ変わったら、何の鳥になりたい?」

そう何の意図も持たずに聞いた言葉が、案外しっかり返ってきた。

「カワセミかな」

「カワセミ?」

思わず聞き返す。

「だってカワセミって、なんかかわいいし。じっと獲物を見定めて捕る感じがかっこよくない?」

「……たしかに」

木の上でふわりと羽根が揺らいだ。

「あなたは?」

「……人間になりたい」

「ちょっと、僕は答えたのに」

「……じゃあ、内緒」

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