【20歳】
あと3年。
【きらめく街並み】
彼の最寄駅で電車を降りて、二人で並んで歩く帰り道。
「あ、」
何かに気がついた彼が声を上げた。
その目線の先を辿ると、きらきらとしたイルミネーションが辺りを照らしていた。
「綺麗」
厚手のコートに身を包み、両手をコートのポケットに突っ込む。
何日か前から着ているそのコートは、去年クリスマスプレゼントとして渡したものだった。
彼に似合う紺色のコート。
「綺麗だね」
私の首元に巻いているマフラーは、彼が去年プレゼントしてくれたもの。
少し派手な気がして、巻くのを躊躇してしまう深い赤色。
それでも、これを巻いているときの彼はどこか機嫌がいい。
「ねぇ、今年のクリスマスはどこ行こっか?」
イルミネーションを見上げながら、思わずそう言っていた。
【贈り物の中身】
「今日誕生日だろ。おめでとう」
ポンと渡された袋は案外重たくて、思わず顔を見上げてしまった。
誕生日当日の仕事。
少なからず憂鬱になっていたそのときに、プレゼントをもらうなんて思っていなかった。
「え、誕プレ?」
「まぁ、そうとも言う」
「そうとしか言わないんだけど。どしたの、僕の誕生日知ってたの?」
気まずそうに目をそらす。
「……たまたま、お前によさそうなものがあったから買ってきただけ」
たまたま、なんて嘘だろう。
バレバレの嘘がかわいらしい。
「そう。ありがとう」
そう言うと、ほっとしたように息を吐いた。
それにしても綺麗に梱包された袋。
僕に渡すような装飾じゃなくて、そわそわする。
こんなふうにして渡すやつだったのだろうか。
ただの仕事仲間。
彼との関係を言葉にするなら、それ以上でもそれ以下でもない。
休みの日に遊びに行くようなこともないし、僕は彼の誕生日すら知らない。
「開けていい?」
ピンクの結び目を解くと、重厚な箱が顔を出した。
その箱も開ければ、
「あ、これ……!」
一本のボールペンが静かに佇んでいた。
僕がいつも使っているブランドのボールペン。
最近限定色が出たって彼に話したんだっけ。
「いいの?こんなにいいやつ」
「いいんだよ。喜んでくれてよかった」
弾けるような柔らかい笑みを浮かべた。
素っ気なさとは裏腹の笑顔がかわいらしい、といつも思う。
僕には真似できないその優しさに、いつまでも溺れていたい、と願う。
「ありがとう」
もう一度つぶやくと、恥ずかしそうに背を向けた。
貰ったばかりのボールペンを胸ポケットに入れる。
彼の誕生日がいつなのか、昼休みに聞いてみよう。
【心の迷路】
ぐちゃぐちゃの心の言葉を吐き出せるのは、スマホの
メモの中だけだった。
ぐちゃぐちゃだったものがなんとなく整理されていく
のを感じて、わずかに安心した。
整理されても、消えるわけではない。
夜中にこぼした涙が消えるわけではない。
帳消しになるような魔法が存在すればいいのに。
今日も消えないため息をついて、変わらない日々を投げ捨てる。
【おもてなし】
「お茶、どーぞ」
「あ、ありがとう」
「それで、話って?」
にこりとも口角を上げずに、まっすぐ目を見つめた。
身体が強張る。唾を飲み込む。
背筋が伸びる気がした。
「……好きです。付き合って、くれませんか」
頭を下げて、目をつぶった。
顔が熱くなる。耳だけ取れそうなほど熱い。
「……あのさ、」
ため息をつきそうな、呆れたような声が響く。
パッと顔を上げれば、お茶の水面が揺れていた。
「私がだめって言うとでも思った?」
「……え」
「ずっと好きだよ」
照れたように笑った。
やっぱり、笑顔が似合う。
太陽のように明るくて、月のように美しい。
「これからも、よろしく」