【心の迷路】
ぐちゃぐちゃの心の言葉を吐き出せるのは、スマホの
メモの中だけだった。
ぐちゃぐちゃだったものがなんとなく整理されていく
のを感じて、わずかに安心した。
整理されても、消えるわけではない。
夜中にこぼした涙が消えるわけではない。
帳消しになるような魔法が存在すればいいのに。
今日も消えないため息をついて、変わらない日々を投げ捨てる。
【おもてなし】
「お茶、どーぞ」
「あ、ありがとう」
「それで、話って?」
にこりとも口角を上げずに、まっすぐ目を見つめた。
身体が強張る。唾を飲み込む。
背筋が伸びる気がした。
「……好きです。付き合って、くれませんか」
頭を下げて、目をつぶった。
顔が熱くなる。耳だけ取れそうなほど熱い。
「……あのさ、」
ため息をつきそうな、呆れたような声が響く。
パッと顔を上げれば、お茶の水面が揺れていた。
「私がだめって言うとでも思った?」
「……え」
「ずっと好きだよ」
照れたように笑った。
やっぱり、笑顔が似合う。
太陽のように明るくて、月のように美しい。
「これからも、よろしく」
【揺れる羽根】
「生まれ変わったら、何の鳥になりたい?」
そう何の意図も持たずに聞いた言葉が、案外しっかり返ってきた。
「カワセミかな」
「カワセミ?」
思わず聞き返す。
「だってカワセミって、なんかかわいいし。じっと獲物を見定めて捕る感じがかっこよくない?」
「……たしかに」
木の上でふわりと羽根が揺らいだ。
「あなたは?」
「……人間になりたい」
「ちょっと、僕は答えたのに」
「……じゃあ、内緒」
【光と霧の狭間で】
にやりと笑う君が見えた。
小走りで近づくと、幻覚のようにすっと消える。
声だけがスピーカーを通したようにぼんやりと聞こえた。
「たすけて、くれますか」
徐々にはっきりとしてくる声。
「どうしたの」
「たすけて、くれるの」
周りを見回す。
「手を伸ばしてみて」
手を伸ばすと柔らかい手が触れた。
「ありがとう」
【愛ー恋=?】
「愛してる」
恋人から言われたその言葉に妙なひっかかりを覚えて、わずかに首をかしげた。
「なんで?」
「……え?」
「今まではさ、『好きだよ』って言ってくれてたじゃん。だから、なんで?」
残念そうにため息をついて、視線を外す。
「……なんとなく、じゃだめ?」
耳がほんのり赤く染まっていた。
「好き、だけじゃなくて、愛してるって思った。だから……」
「……ありがとう」
やっとそうつぶやくと、そっと抱きしめられた。