【揺れる羽根】
「生まれ変わったら、何の鳥になりたい?」
そう何の意図も持たずに聞いた言葉が、案外しっかり返ってきた。
「カワセミかな」
「カワセミ?」
思わず聞き返す。
「だってカワセミって、なんかかわいいし。じっと獲物を見定めて捕る感じがかっこよくない?」
「……たしかに」
木の上でふわりと羽根が揺らいだ。
「あなたは?」
「……人間になりたい」
「ちょっと、僕は答えたのに」
「……じゃあ、内緒」
【光と霧の狭間で】
にやりと笑う君が見えた。
小走りで近づくと、幻覚のようにすっと消える。
声だけがスピーカーを通したようにぼんやりと聞こえた。
「たすけて、くれますか」
徐々にはっきりとしてくる声。
「どうしたの」
「たすけて、くれるの」
周りを見回す。
「手を伸ばしてみて」
手を伸ばすと柔らかい手が触れた。
「ありがとう」
【愛ー恋=?】
「愛してる」
恋人から言われたその言葉に妙なひっかかりを覚えて、わずかに首をかしげた。
「なんで?」
「……え?」
「今まではさ、『好きだよ』って言ってくれてたじゃん。だから、なんで?」
残念そうにため息をついて、視線を外す。
「……なんとなく、じゃだめ?」
耳がほんのり赤く染まっていた。
「好き、だけじゃなくて、愛してるって思った。だから……」
「……ありがとう」
やっとそうつぶやくと、そっと抱きしめられた。
【梨】
「梨、買ってきたんだけど、食べる?」
「え、食べたい!」
わかった、と言ってキッチンに引っ込んだ彼。
冷蔵庫から梨を取り出して、果物ナイフで軽やかに切っていく。
「切れたよ」
「ありがとう」
いただきます、とつぶやいて一切れ手に取る。
シャクっといい音がして、果汁が溢れ出した。
「おいしいね」
【LaLaLa Goodbye】
「ばいばい」を言うのすらためらうようになった
"別れ"が言葉になるのが悲しくて、つらくて
言葉を出すことへのハードルが高くなった
どう思われるのだろう、と
共感されないのだろうか、と
でも、共感なんて考える自分がダサくて気持ち悪くて
そんな自分の言葉なんていらないと
どんどん口に出さなくなっていった
書けるのに、口には出せない