【約束】
「勝ちたい」
彼の目に映っていたのは、常に今じゃなくて未来だった。
立ち止まっている瞬間はなく、走り続ける。
「勝ちたいね」
去年の今頃、『僕らなら勝てます』と言い切った彼についてきた。
いや、喰らいついてきた。
誰よりも前のめりで、変革を怖がらない彼に。
「誰も見たことない景色見よう」
自らがヒールになることにもなんの躊躇いもなかった。
どこまでも孤独で孤高だった。
誰にも止められなかった。
彼にとって唯一無二で、証明だったのだと思う。
「どんな景色なんだろうね」
緊張で強張った顔が和らいだ気がした。
fin.
【ひらり】
ひらりとプリントが落ちる
それを拾う人が優しいとされる世界で
それを拾う勇気も出ない自分
【誰かしら?】
「帰りたい」
学校でも、
「帰りたい」
家でも、
口癖のように止まらなかった。
「そんなに家好きなのかよ」
と、友達に笑われても、
「どこに?」
と、親に不審な目を向けられても、
消えなかった。
どこに、誰が、帰りたいのだろう。
fin.
【あの日の温もり】
『暗愁』
「なんでこんなことしてるの」
赤く染まった彼の手首を見て、頭が真っ白になった。思わず言葉が口を突いて出た。
「ねぇ、なんで」
「…なんで、気づいちゃうかなぁ」
意味がわからなかった。顔色一つ変えない彼にも、自分を傷つける彼にも。
「いつもは、ちゃんと隠してるんですけど」
「そういうことじゃなくて」
ぱっと顔が上がった。やっと目が合う。指先が小さく震えていた。
「…怒ってます?」
「怒ってるよ」
「ごめんなさい」
自分の伝えたいことが半分も伝わっていないようで、ひどくもどかしかった。
「そうでもなくて…」
ため息を吐く。言いたいことはたくさんあったのに、何を言ったらいいのかわからない。
fin.
【cute!】
かわいくて頭の切れる、目を離せない人がいる。
毎週最悪を更新してくれて、逃げようかとも思った。
でも、彼の持つ人柄と未来を見通す鋭さに留まることを決めた。
信じて待ってみたいと思わせてくれた。
大丈夫だよ、って声が聞こえてくる気がした。
どの判断も正しいかはわからないし、後で後悔するかもしれない。
怖くてしょうがない。