【夜空を駆ける】
銀色の刃物が切り裂く音がした。
赤い液体がタラリと皮膚の上をつたう。
真っ暗な部屋で、揺るぎない赤が光っていた。
美しくて、眩しくて、思わず目を細めた。
もどかしいほど言語化ができなくて、ありふれた言葉しか浮かばなかった。
つらい。しんどい。
身体と心が追いついていないのがわかる。
自分を大切にする方法を忘れていた。
ずっと、夜が長い。
fin.
【ひそかな想い】
好きだって言わなかった。
いや、きっと言えなかった。
彼女に振られたって、傷ついた笑みを浮かべてるのに言えるわけなかった。
僕だったら、なんて本気でマンガみたいなことまでよぎった。
でも、自分に自信はないし。
同じ気持ちの保証は一ミリもない。
立ちはだかる壁が高すぎた。
このとき。
僕が何かできてたら、未来は変わったのかもしれない。
fin.
【あなたは誰】
見覚えのある男の顔と目が合った。
ただただ嫌な予感がする。
目がそらせない。
手に力が入る。
生唾を飲み込む。
逃げたいのに、足がすくむ。
金縛りのように、全身が動かない。
いつまでこのままなのか。
思考が凍りつきそうになったころ。
にやり、と男の口角が上がって、膝から崩れ落ちた。
何が起きたかすら分からず、まばたきだけ繰り返す。
こちらに向かってくる足音に、身体がガタガタ震え始める。
トン、と靴が視界に入ったのを合図にして、抗いようのない恐怖の海に沈んでいった。
「…あーあ、残念。もうちょっと、だったのに」
fin.
【輝き】
輝きが見出だせなくなったのはいつからだろうか。
きらきら光る街に、どこかどす黒い闇を感じるように
なって煌めきを感じなくなった。
新しいことに恐怖しか感じなくなって、避けることが
多くなった。
どんどん悪くなる現実から逃げるようにインターネットにのめりこんだ。
日々の中に、輝きなんてあるのかな。
【時間よ止まれ】
家は出るしかない。
でも、学校に行くまでの時間が嫌でたまらない。
家から出て、学校に行くまでの時間が
止まればいいのに。