衣替え
夏服と冬服を入れ替えるように、自分が被っている何かを着替えることはできないだろうか。
半年毎に、自分も真新しくできないものだろうか。
そんな馬鹿げたことを考えていたら、隣を歩いていた彼が、上着を私に着せ掛けながら、笑う。
「まだ、衣替えしてないの?」
こうして笑いかけてほしかったからだ。
とは口にしないで、私は上着に残った彼の温もりを感じている。
声が枯れるまで
「声が枯れるまで」、叫べ。
そうでないと、空にいる君に、この声は届かない。
面と向かって言う事のできなかった、この言葉を。
誰に聞かれても構わない。
君に届けば、それでいい。
たった一言。
愛している。
始まりはいつも
「始まりはいつも雨って、歌詞なかったっけ?」
「あったような、なかったような。」
何だよ、頼りになんねぇなぁ。と言って、彼は、俺の背中を叩いた。
ちょっと力強くね?
その勢いに当てられて、咳き込み始めた俺を見て、ごめん。わりぃ。と背中を擦り始める。
その掌から感じる熱さと優しさに、涙ぐみそうになる。
いつまでこうして、隣に居ることができるんだろう。
いつまでこうして、軽口を叩きあうことができるのか。
始まりはいつも、こうでありたい。
すれ違い
僕が仕事で忙しい時、君は早く結婚したいと願っていた。
僕が周りの結婚ラッシュに戸惑っている時、君はマネージャーに昇格して、仕事が楽しくてしょうがなくなっていた。
ことごとく僕たちはすれ違っていた。
僕が君のことが大切で仕方がないと思っていた時、君の心は僕の元にはもうなかった。
最後に別れを切り出した時、ようやく僕たちはすれ違わなくなった。もう全てが遅かった。
秋晴れ
夏よりも空が高くなったように感じる。
風も涼しい。
今日は君の代わりに洗濯物をベランダに干そうか。
いや、これだけ気持ちいい空気だから、一緒にやって、早く終わらそう。
そして、その後近くを散歩しないか。
きれいな「秋晴れ」の空を、一緒に堪能しよう。