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10/26/2024, 1:14:37 AM

「由美ちゃんは他の子と仲良くなってね、でも私のことも誘ってくれるの。そんで、三、四人で遊びに行くと、いつも、私話に入っていけなくて。あの子たちがお話ししているのを、なんとなくで聞いて、乾いた笑いを出して頷いて、頭の中で処理しているうちに、次の話題に行ってるの。ショッピングモールを歩いている時も、私だけ一歩後ろを歩いてる。服屋さんでも、はしゃいでるあの子たちを、笑顔を貼り付けて見ているだけ。
 頭がジリジリするの。友達と遊ぶのって、こんなに苦しかったっけ。早く帰りたい、早く帰りたいって常に思ってる。帰りの電車で、ようやく解放されたーって、一日で初めて、嬉しいって思う。
 そんな、誘ってほしくないなんて思ってないよ。ただ、違うの、ママ。わかるでしょ?こんな話をした理由。
 あの人はね。私の話を聞いてくれる。楽しい話をしてくれるし、私にだけ笑ってくれる。それに、美味しいご飯も食べさせてくれる。私はまったくお金出さなくていいんだよ?すごく楽しいの。
 今度ね、もっとお金くれるんだって。その代わり、手を握らせてほしいらしいけど。なんじゃそりゃって感じだよね。ママにもお金あげるね。あの人も楽しそうだし、私も嬉しい。これが、友達ってことなんだと思う!
 ねえ、ママ。どうして泣いてるの?どうしたの、ママ…………、」

10/24/2024, 7:48:15 PM

 ドアノブを捻る手、振り向いた時に滑らかに広がる髪の毛、私を見つめる笑顔、「いってきます」と動く唇。
 背中がぐんぐん遠くなる。ドアの外、光の中へ吸い込まれて、小さくなって消えていく。
「いかないでっ……。」
 か細い自分の声に、目が覚めた。はぁ、はぁ、と息遣いが聞こえる。苦しい。涙がこぼれ落ちて、耳の中へ入る。
 鼻を噛みたくて、耳の中を拭きたくて、身体中を拭いたくて、起き上がった。
 こんな欲求、なんて贅沢なんだろう。自分の苦痛を取り除く為に、起き上がれるなんて!
 ティッシュに手を伸ばしながら、斜め左を見た。あの子と目が合った。振り向いて私を見た時の笑顔のまま。
 元気な姿を見せたいのに、あの子が重い鉄の扉に吸い込まれる時も、小さくなって帰ってきた時も、そして今も、私は「行かないで」と縋るだけ。
 いつしか、前を向いて歩いて行ける日が来るのでしょうか。あの子は、その先にいますか。

10/23/2024, 9:23:21 PM

こんなに空が青いと、勘違いしてしまう。
ずっとこれと同じ空が続いていて、その下にはこの街と同じ、暴力のない世界がある、と。
危険だ。この空の千里先では、鼻を摘みたくなるドス黒さで、雲がたちこめているというのに。
空の青さはわたしたちを騙くらかして、口にさせる。
「今日も平和だ。」

10/22/2024, 11:50:05 PM

 長ーい夏が終わって、ようやく秋が来たって感じ。長袖のブラウス着て、ベスト着て、ブレザーの前にカーディガン……はまだ暑いかな。
 そんで、スカートはやめて、秋からはスラックス。スカートの方が可愛いっていう友達もいるけど、だってだって寒いんだもん。
 スタンドミラーの前で身だしなみの最終確認。そしたら、ママがひょこっと覗いてきた。
「どしたの、ママ。」
 ママはお上品な笑みを顔いっぱいに浮かべた。
「ううん。ただね、良い時代になったな、って。」
「どういうこと?」
「ママが高校生の時はね、スカートしか履いちゃいけなかったし、体操着なんてブルマっていうパンティみたいなやつだったのよ。寒くて、恥ずかしくて、悔しかったわ。」
「なにそれ、ありえないね!」
 わたしがそう言うと、何故かママは満足そうに頷いていた。
 
 秋の装いでいってきます。わたしらしさを祝うような、優しい風が吹いた。

10/21/2024, 11:21:15 PM

四百人が俺の歌を待ってる。
袖まで流れてくるどよめき。会場BGMには俺の憧れ。漏れ伝う光。メンバーの呼吸。汗の滴る額、やまない動悸。
俺は俺の為に歌ってきた。メジャーデビューなんてクソ喰らえだ。俺は今から、金の為に歌うのか?
チューニングで掻き鳴らされるギター。俺の鼓膜は哀愁を捉えた。
フッ、と風を切るように息を吸え。すべてを出し切って吐け。
俺が変わらなければいい。俺は死ぬまで声を枯らす。

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