ドアノブを捻る手、振り向いた時に滑らかに広がる髪の毛、私を見つめる笑顔、「いってきます」と動く唇。
背中がぐんぐん遠くなる。ドアの外、光の中へ吸い込まれて、小さくなって消えていく。
「いかないでっ……。」
か細い自分の声に、目が覚めた。はぁ、はぁ、と息遣いが聞こえる。苦しい。涙がこぼれ落ちて、耳の中へ入る。
鼻を噛みたくて、耳の中を拭きたくて、身体中を拭いたくて、起き上がった。
こんな欲求、なんて贅沢なんだろう。自分の苦痛を取り除く為に、起き上がれるなんて!
ティッシュに手を伸ばしながら、斜め左を見た。あの子と目が合った。振り向いて私を見た時の笑顔のまま。
元気な姿を見せたいのに、あの子が重い鉄の扉に吸い込まれる時も、小さくなって帰ってきた時も、そして今も、私は「行かないで」と縋るだけ。
いつしか、前を向いて歩いて行ける日が来るのでしょうか。あの子は、その先にいますか。
10/24/2024, 7:48:15 PM