「アビス」
テーマ「逆さま」
ショートショート ユーモアファンタジー
「ファイトクラブ」
テーマ「眠れないほど」
ミステリー
当事者会に参加してもう4回目。僕は腎臓病ではない。だが参加すると心が満たされることを知ってから通い詰めている。僕は夜眠れない、不眠症を抱えてる。医者に相談しても効果はない。だが、腎臓病の当事者ではないのにその会に参加した日の夜は眠れるんだ。それがこの習慣の発端になった。今や様々な病気の会に参加している。どの病気も当事者ではない、不眠症以外は。だが、ある時同じ顔を色んな会で見た時があった。僕が参加する会のほとんどに参加している男が居た。直感というかなんとなく分かった。おそらく僕と同じだ。当事者ではないのだろう。悩みを共有することではなく、参加すること自体が楽しいという動機で会に参加しているにちがいない。問題は相手が僕のことにも気付いているだろうということだ。周りの人に僕が色んな会に参加していることをそいつに言いふらされては説明に困る。なんとかしなくてはいけない。僕は自分から接触を図った。
「ここは安くていいですよね」
「ここが便利でね。家に近いのもある。」
「あなた、僕のこと覚えてますか?」
「ああ、知ってますよ。あんたとは気が合いそうだと思ってました。」
「嬉しいです。僕もです。、、、さっき離婚当事者の会に参加してましたよね。
「密室の談義」
テーマ 「夢と現実」
ミステリー
ギデオン・フェル博士の講義が始まった。
「ウォッチファイア」
テーマ「さよならは言わないで」
純文学
「さよならだけが人生さ」
自分に言い聞かせながら、車のトランクを閉めた。
ここからは歩いて行かなくてはいけない獣道。
あたりは緑と木漏れ日で溢れていて森の息吹を感じられる。自然に触れながら働ける良い職場だと思う。
俺は奥さんや息子に無理強いをさせてしまうところが多々あり、ついには別れを切り出された。仕事で忙しかったのだけれども、言い訳にしかならない。前職の仕事も手につかなくなって、街のポスターを見てここの職場を見つけた。自然に触れてリフレッシュしたかったのもある。けれど、自然の中で自分と向き合う時間を過ごすことが出来ると思った。自分の悪い部分を改めようと、奥さんや息子に対して反省しようと、そういう時間を過ごそうと思って応募した。まずは自分で自分のことを知りたいんだ、俺はまだ未熟だから。それを自分で認められなかったから。そう考えている内に目的地へ辿り着いた。見張り台は30m以上も高いところにあり、階段で向かう。一段登るごとにきいきいと鉄が軋む音がする。手すりにつかまりながら下をあまり見ないように登る。見張り台の中は使い古された年季を感じさせる場所だった。ここがこれから長い時間を過ごすであろう監視塔だ。クライアントに言われていた通り、置いてあったトランシーバーを手に取り電源を入れる。
「もしもし」
しばらく待つが応答がない。
「あのーもしもし」
何も聞こえない。
「こちらマルヴォ。監視塔に着きました。」
10秒後ぐらいにトランシーバーから声が聞こえてきた。
「もしもし!すいません、こちらエマです。遅れてごめんなさいね。」
明るい女性の声が聞こえてきた。もちろん会ったことのない人だ。誰とでも仲良くなれそうな、気さくな雰囲気を感じた。
「わたしがこれからあなたにしてほしいことやら色々お願いを出す係なの。ここの管理者との中継的な立場ね。よろしくね。」
「ここに来る前に聞いていたのでなんとなく分かってますよ。よろしく。」
「before your eyes」
テーマ 「光と闇の狭間で」
ショートショート ユーモアファンタジー
瞼を開くと、霧がかったどんよりとした空が見えたんだ。そして、ここが木製のボートの上だということは分かった。そしてどこかへ向かっているみたい。けれど漕いでいるのは僕じゃなくて、別の人。人っぽいんだけれどどうみても顔がキツネさんなんだ。キツネみたいな顔つきという意味じゃなくて、まるっきり顔がふさふさのキツネなんだ。腕もオレンジ色と金色を混ぜたような綺麗な毛色でふさふさ。そんな人がボートを漕いでる。その人は僕のことをじっと見ててちょっと怖い。ボートの上にはそのキツネみたいな人と僕の2人だけ。どういう状況なのか僕は分からないまま、落ち着かないし、不安で、夢の中なんじゃないかと思えてきていた。
「君は裁かれにいくんだよ」
優しいけれどどこか悲しげな声でそう聞こえた。
キツネみたいな人はゆっくり、ゆっくりオールで漕ぎながら続けた。
「君は何をしていたのか覚えてる?」
僕は突然声をかけられ、慌てふためいておどおどしてしまった。僕は記憶を辿ろうと思ったけれど、ぼんやりとあいまいなことしか覚えていなくて、答えられそうにない。