荼毘

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「ウォッチファイア」

テーマ「さよならは言わないで」

純文学


「さよならだけが人生さ」
自分に言い聞かせながら、車のトランクを閉めた。
ここからは歩いて行かなくてはいけない獣道。
あたりは緑と木漏れ日で溢れていて森の息吹を感じられる。自然に触れながら働ける良い職場だと思う。
俺は奥さんや息子に無理強いをさせてしまうところが多々あり、ついには別れを切り出された。仕事で忙しかったのだけれども、言い訳にしかならない。前職の仕事も手につかなくなって、街のポスターを見てここの職場を見つけた。自然に触れてリフレッシュしたかったのもある。けれど、自然の中で自分と向き合う時間を過ごすことが出来ると思った。自分の悪い部分を改めようと、奥さんや息子に対して反省しようと、そういう時間を過ごそうと思って応募した。まずは自分で自分のことを知りたいんだ、俺はまだ未熟だから。それを自分で認められなかったから。そう考えている内に目的地へ辿り着いた。見張り台は30m以上も高いところにあり、階段で向かう。一段登るごとにきいきいと鉄が軋む音がする。手すりにつかまりながら下をあまり見ないように登る。見張り台の中は使い古された年季を感じさせる場所だった。ここがこれから長い時間を過ごすであろう監視塔だ。クライアントに言われていた通り、置いてあったトランシーバーを手に取り電源を入れる。
「もしもし」
しばらく待つが応答がない。
「あのーもしもし」
何も聞こえない。
「こちらマルヴォ。監視塔に着きました。」
10秒後ぐらいにトランシーバーから声が聞こえてきた。
「もしもし!すいません、こちらエマです。遅れてごめんなさいね。」
明るい女性の声が聞こえてきた。もちろん会ったことのない人だ。誰とでも仲良くなれそうな、気さくな雰囲気を感じた。
「わたしがこれからあなたにしてほしいことやら色々お願いを出す係なの。ここの管理者との中継的な立場ね。よろしくね。」
「ここに来る前に聞いていたのでなんとなく分かってますよ。よろしく。」

12/3/2023, 4:06:16 PM