りんごとなしって似てるのに、扱いは全然違うの。
同じバラ科の果物。中身は同じ色。食物繊維がたくさんなのも一緒。食感も…まあまあ一緒。まあ違う所もそりゃあるけど。でも…例えばほら、しりとり。
しりとりの次は大抵りんごだし、「りんご!」って叫んだら大体の人が「しりとりがはじまった」って思ってくれるじゃない。
でも、しりとりの途中でながきても、なしってあんまりこないの!納豆とか、長芋とか…内閣とか。そういうのばっかり出てくるし、私が「なし!」って叫んでも、きっと誰もしりとりなんて思い浮かばないと思うの。
これは私にも言えることかも。
私は双子だから、姉も妹も似てるはずなのに…
みんなお姉ちゃんの方に行くの。
見た目は似てるけど、お姉ちゃんの方がしっかりしてるの。お姉ちゃんの方が信頼されてるの。お姉ちゃんの方が可愛くて優しいの。
果物に例えるなら、私がなしでお姉ちゃんがりんごね。
同じような果物なのに、りんごのほうが愛されてるの。
同じ顔や見た目なのに、お姉ちゃんの方が愛されてるの。
なしも私も、比べられる間もなく捨てられるの。
可能性は浮かばれもしないの。
比べないでなんて願い、届きやしないの。
だから私はなしのほうが好きね。まあ、みずみずしいし、味が好きっていうのも大きいけど…なんか親近感が湧くの。だから何が言いたいかって言うと…まあ
似てるし、りんごのほうが有名なんだけど、2つを比べてもなし派の人が少しはいるのよ。
だから、2人を比べてもみんなお姉ちゃんの方がいいっていうけど―――――
私のほうがいいって必要としてくれる人もいるのよ
「おれ、明日真美に告ろうと思うんだ」
私は知っている。真美と賢治は両想いなこと。
ずっと好きだったけど、賢治が真美に告白すれば100%OKするだろう。もう彼の気持ちは変えられない。
明日から彼は、他の人のものになる。
……やだ。そんなの耐えられないよ
ずっと賢治が好きだったのに。なんで真美なんかに…!!
なーんて、嘆いても仕方がない。私の魅力不足だ。
「…そっか、がんばってね!でも…」
私は賢治に持たれかかる。
「…えっ??」
明日にはあなたは他の人のものになってしまう。
なら…せめて、今日だけは許して。
今日だけは、貴方に私の気持ちをぶつけてもいいですか。
今日だけは、貴方に甘えてしまって構いませんか。
承諾もなく、私は彼の顔すら見ず体温を感じていた。
十分間の出来事が、まるで十秒のように感じられる。
十二時に時計の針が動く。もう、気持ちは吹っ切れた。
…いや、そんな訳はないけど。もう、吹っ切れなければならないのだから。しょうがない、そういう運命だった。
涙が頬を伝う前に、彼のもとを私は足早に去っていった。
急に肩にもたれて何も話さず、十分後そそくさと何処かへ行く私を見つめる彼は、本当に気が抜けたような顔をしていた。それが、私が見る最後の彼の顔―――――
…に、なるはずだった。そう思ってた
後日、友達から「真美が賢治の告白を断った」という噂話を伝えられるまでは。
絵を描くのが昔から大好きで、将来の夢はイラストレーター。そんな私が、1年前からXに絵を投稿し始めたの。
毎日毎日熱心に描き続けて、投稿も沢山して―――!!
努力は実らなかった。未だ一つの絵につき3いいねが妥当。多くても7〜8いいね。フォロワー未だ2人。
自分が描いた絵は自分では上手く見えるもの。
悪いところを直そうにもどこが悪いとかいいとか自分ではわからないし、定期的に見てくれるようなファンもいないし…どうすりゃええの、コレ。
そうやって1年間積もり積もった承認欲求が、爆発しそうになるのを抑える。こうやって投稿を続けたら、誰かは見てくれるはずなんだ。いつかは見て…もら、える…
……いつかっていつ???
私はいつまで誰も見ていない需要なんてひとかけらもない絵を投稿し続ければいいの??
誰か、私を見て。私の絵を。私の努力を!!!
私の事を褒めてよ、誰か…誰か!!!!!――――
誰か
好きな人が付き合った。
好きな人『と』ではなく、『好きな人』と『好きな人の好きな人』が付き合った。幼なじみの私には関係のない話なのかもしれない。でも、好きだった。ずっと好きだった。
幼稚園の頃、泥団子を真っ先に私にくれた優しさが好きだった。
小学生の頃、ひとりぼっちで本を読んでいた私を誘ってくれた優しさが好きだった。
中学生の頃、私が辛い時寄り添ってくれた優しさが好きだった。
いつもあなたの優しさが好きだった。
でも、私が好きだったのは好きな人だけではない。
好きな人の好きな人は、私の親友。
ずっと笑顔で、華やかで、男女ともに人気のあの子。
私が孤立してる時も話に入れてくれて、彼ほどではなくとも優しかった。
2人とも大好きだった。
こんな時、どんな顔して泣けばいいんだろう
私が今泣いているのはなんでだろう。
好きな人が取られたから?
好きな人が、親友が幸せになったから?
努力なんて報われないことを知ったから?
この涙の理由を知ってしまった時、私は私のことを嫌いになるのだろうか。
もし、この涙がただの嫉妬なのだとしたら……
コーヒーは熱いうちが一番美味しい
彼はいつだって温かいコーヒーを好んでいた。
当の私は、少し冷めたコーヒーが好きだった。
価値観の違いは、関係を地道に壊していく。
彼にとって浮気は関係を持ってから。
私にとって浮気は二人で内緒で会ってから。
彼にとって私は都合のいい家政婦
私にとって彼はかけがえのない大切な存在
彼にとって私との別れは幸―――
これ以上は辞めておこう。これを口に出したら私たちの関係はとうとう終わりだ。私と彼はまだ結婚はしていない。片方が別れを告げれば、簡単に終わってしまう儚い関係…いや、儚いなんてそんな綺麗な言葉は使えないか。
私たちの関係は脆く、今にも壊れてしまいそうな…まるで急いで作った橋のように。
壊れてしまうのは一瞬。積み上げたものなんて、足場が壊れれば一気に落ちてしまう。
もう、彼にとって私は冷めたコーヒーなのだろうか
コーヒーも愛も彼にとっては同じだ。熱々のうちが一番良くて、冷めきってしまえばもういらない。欲しくない
ならせめて、コーヒーが冷める前に…
この愛が冷める前に終わりにしよう。別れを告げよう
そう考えて彼の目の前、ここに立っているというのにいざ切り出そうとするとうまく声が出ない。大切な気持ちはほぼ残っていない。ほぼ…???『ほぼ』という言葉が、私の中で何故かやたらと引っかかる。何で……いや、
もう冷めきっているからか。