今私は、少しキザな友達と一緒にいる。
…だから、少し困っている。
「ねぇ、今何時?私スマホの充電切れちゃったから確認できなくて…」
何回聞いても、彼は同じように答える。
「今?今は、ミッドナイトさ。」
私は国語の成績も英語の成績も皆無なもんで、この…彼の言う『ミッドナイト』がどういう意味かわからない。
私は、今時計を持っていないしスマホも充電がない。
しかもこの部屋には時計もないから、私が今の時間を知るすべは彼に聞くしかないのである。
てかなんでこいつの家時計ないんだよ…
何より、もし私が知らないだけで凄く一般常識的な言葉だったら、物凄く恥ずかしい。ていうか、彼は私が知っている前提でミッドナイト、と答えているから多分一般常識だ。
えっと、整理してみよう。
まず、『ナイト』は夜だ。つまり今夜なのは間違いない…
とも言い切れない。もし『ミッド』というのが否定的なニュアンスの言葉なら、夜ではない…つまり昼とかの可能性もある。私はさっきまで仮眠をとっていたので時間がここに来てからどれ程経過したかがわからない。
次は、そもそも『ミッドナイト』が時間を表さない場合。
ミッドナイトというのが、夜!とか外が暗い!とか曖昧な言葉の可能性もある。その場合こいつのさじ加減だ。
「…君、もしかしてミッドナイトというワードのディフィニションを知らないのかい?」
「…知ってるけど???」
強がってしまった。もう自力で推理するしかないのだ。
後戻りができなくなってしまったが、まあいいだろう。
…ていうかディフィニションって何??まあわからなくてもいいか、それは。
私が文系教科がものすごく苦手なのを知っていてこんな言い回しをしているのなら、こいつは相当な性悪野郎だ。
ならこいつ私に時間教える気ねぇだろ…
…
「あは、わたし帰るね」
「ちょっと待ってごめん12時です」
彼はそうやって座っていた座布団の下からデジタル時計を取り出した。
「時計あるなら最初から見せろよ…」
「知らないことを悟られまいと、ひとりで思考の迷路に入り込んでいく君が、どうにも可笑しくて、つい黙ってしまったんだ」
…この人の言うことは、いつ聞いてもよくわからない。
多分こいつの言うことは一生わからない。
迷路…??なんの話だ。まあ、とりあえず…
こいつはやっぱり性格が悪い。
「可愛くないやつだな」
今日はもう遅いし泊まらせてもらお〜っと
てか結局ミッドナイトってなんだったんだよ
安心と不安
私は生まれつき幸運で、
幼少期大地震が起こった時も家族のなかで私だけは無事。
恋人と同棲中家に強盗が来ても、私だけは無事。
大親友たちに誘われたが、忙しいから、と断った遊び先で事故があり、休んだ私だけは無事。
靴紐を結ぶ為にお祖父ちゃんに先に進んでもらっていたら崖が崩れ、立ち止まっていた私だけは無事。
いつ何があろうと、私だけは死なない。無事。
何が起きても私は安泰、と安心する反面、
これまでの幸運の分、すごく大きな不運が私のもとに舞い降りるのでは?と心配してしまい、最近は夜も眠れない。
ある日ふと、人肌が…生き物のぬくもりが恋しくなり、ペットショップへ向かった。そこで出会ったトイプードルのマロン。
すごく可愛らしく、ショップで上目遣いで回りながら見つめてきた時は、即決で買ったものだ。
この子を引き取って約1年。
なんてかわいらしいのだろう。家族同然…いや、家族だ。
自分の命なんかよりこの子を守らなければ…なぜか、そんな気がした。まあ私は死なないと思うけど。
「今日はお散歩に行こうねー!」
いつもの見慣れた道。5年間ここらへんでは事故が一切起こらない、すごく平和な街だ。ここの住人である、といえことすらとても誇らしい。
ダッ
「っまろん?!待っ―――」
マロンが急に走り出した。その方向は…
がしゃん。と音がした。5年間、聞いたこともこれから聞くこともないと絶対に思っていた、その音。
凄まじい衝突音に遅れて、咄嗟につぶった目を開いた時、
見た光景は―――
サイレンが鳴り響く。玄関で今も鳴っているチャイム。
…あぁ、私幸運なんかじゃないや
これからも、私は自分が何があっても死なない安心感と共に人生を、今を生きていく。
そして、大切な存在が全て消えゆく不安とも―――。
今年の抱負
「今年こそはちゃんと暮らすんだ!」
私は俗に言う社畜で、最近の生活は特に酷かった。
帰るのは終電後、2時に家ではなくネカフェに。
寝るのは2時過ぎから5時まで。
食べるものはカップラーメン。
こんな生活…もうやめよう!!
まあ会社はやめらんないけど…はぁ…
カタカタカタッ タン!!
新年というのに仕事をしているのも癪だが、これが私社畜の運命なのだ。
「仕事終わったので帰ります!!」
「おい、まだ終電前―――」
「タイムカードはずっと前に切ってます!帰ります!!」
上司の言葉を無視してギリギリ終電に乗る。
今日はカップラーメンじゃなくて、手料理を食べよう。
カレーでも食べよう。いや、魚でもいいかな…
とりあえず近くのコンビニでレトルトカレーを購入した。
カチッ。
色々ミスはしてちっさい火傷とかしちゃったけど…
「…おいしい」
美味しすぎて思わず涙が頬を伝い溢れる。
久しぶりの白い白米を一口一口噛み締める。
なんだか生きてるって感じだ。
明日からも自炊を続けてみよう。
1日1日を素敵に生きるんだ。
もっと幸せに生きるために。
新年のカウントダウンが始まった。
『3…2…1…』
『0!!』
ポチッ
そのカウントダウンと共に、私はグループLI〇E『仲良しグループ!』を退会した。私は…このグループでい〇めを受けてきた。きっかけはまゆの好きな人と一緒に帰ったから…
…ばっかみたい。
私は抵抗しなかった。自分が悪い…そう信じ込んでいたから。そんな訳がないのに。どんな訳があったって悪いのはい〇めるほうだろう。そう心の何処かでは分かっていたのに私は勇気が出なかった。もし、無駄に足掻いて逆に悪化したら?私の行動が気に食わなくてい〇めがエスカレートしたら。そう考えていたら、何かしてでもやめてもらおうなんて考えは湧いてこなかった。
今日から2026年。
去年のことをすべて忘れてしまう区切りがついた。
明日から、私はちゃんとした友達を作るんだ。
あんな子たちとは2度と関わってやるもんか。
好きなように生きてやる。
全員分のLI〇Eはブロックしたし、もう大丈夫。
怖くない。
新年を…今年こそ、笑って過ごせるように。
好きな人がアカウントを消していた。
ネット彼氏。本来ネットがなければ知り合うはずなかった2人。インターネットが私たちを繋ぎ止めていた。
彼のアカウントがなくなった以上私たちはもう二度と会うことはないと思う。
なんで、何も言ってくれなかったんだろう。
なにか一言くらいくれても良かったじゃない。
こんな結末望んでなかった。私の何がだめだったの?
そもそも原因は私?何が貴方を傷つけたのか。
そもそもただ忙しくなったから?彼が幸せならそれでいいけど…いや、そんな訳にも行かない。
今更何もわからないけど、こんなに静かな終わりだからこそ、嫌な程冷静になってしまう。
「…私に何かできること、なかったのかなぁ」