コーヒーは熱いうちが一番美味しい
彼はいつだって温かいコーヒーを好んでいた。
当の私は、少し冷めたコーヒーが好きだった。
価値観の違いは、関係を地道に壊していく。
彼にとって浮気は関係を持ってから。
私にとって浮気は二人で内緒で会ってから。
彼にとって私は都合のいい家政婦
私にとって彼はかけがえのない大切な存在
彼にとって私との別れは幸―――
これ以上は辞めておこう。これを口に出したら私たちの関係はとうとう終わりだ。私と彼はまだ結婚はしていない。片方が別れを告げれば、簡単に終わってしまう儚い関係…いや、儚いなんてそんな綺麗な言葉は使えないか。
私たちの関係は脆く、今にも壊れてしまいそうな…まるで急いで作った橋のように。
壊れてしまうのは一瞬。積み上げたものなんて、足場が壊れれば一気に落ちてしまう。
もう、彼にとって私は冷めたコーヒーなのだろうか
コーヒーも愛も彼にとっては同じだ。熱々のうちが一番良くて、冷めきってしまえばもういらない。欲しくない
ならせめて、コーヒーが冷める前に…
この愛が冷める前に終わりにしよう。別れを告げよう
そう考えて彼の目の前、ここに立っているというのにいざ切り出そうとするとうまく声が出ない。大切な気持ちはほぼ残っていない。ほぼ…???『ほぼ』という言葉が、私の中で何故かやたらと引っかかる。何で……いや、
もう冷めきっているからか。
9/26/2025, 1:54:38 PM