小説家になれない今日にさよなら。
また、明日と明日と先延ばしになるのが定席だ。
ただ、その定席はいつかの小説家としての大事な財産となるのだから。
誰よりもあなたを愛してた。
それなのにあなたはどうして私の隣にいないの。
私の心残りは、それだけだ。
10年後の私から届いた手紙。
私は、小説家として物語を書き続けています。
どんなことあっても諦めるな。
諦めたら、この世界の私は消えてしまうのだから。
バレンタイン。
それは、私にとって決戦の日だ。
好きな人にチョコを渡す。
その筈だった。
なんでなのよ、私熱出しちゃったのよ
翌日、バレンタインデーが終わって浮かれた気分も終わっちゃってる。
でも大丈夫だよね、朝四時から作り直したし、絶対幼馴染に渡す。
『教室の前で立ち止まってどうしたんだ?』
『あ、健斗。一日遅れのバレンタイン』
健斗は、驚きもしなかった。
『ありがとな、あの約束忘れてねぇからな』
健斗はからかうのが上手だ。私たちがまだ保育園で砂場遊びをしていた頃、私から言ったあの言葉。
『好きなの、だからしょうらい、けっこんして!』
その後、私は教室に入れず予鈴がなるまで顔を冷やすので精一杯なのであった。
そうして、高校を卒業、大学を卒業した所で私は正式にプロポーズを受けた。
その日も、高校で一日遅れで渡したバレンタインデーと同じ二月十五日の朝。
それを子供たちに聞かせると、『今もラブラブだよ』って返ってくるぐらい、あの頃の甘くて幸せなチョコのようなひと時を過ごしていると実感できたのである。
『待ってて』
その言葉を聞くと胸が苦しくなる。
その言葉を最後に、母親とは一度も会っていない。
それ以来僕は、人を信じられない。
信じて裏切られるのが怖いのだ。
『洋介くん、ここで待っててくれるかな?』
『……』
形だけでも声を出さなければならないのに、声が出なかった。
怖くてたまらず、今すぐにでも逃げ出したいと思う。
なんとか首を縦に振ったが、職員の顔は見れなかった。
そんな日常をずっと過ごした結果、社会の歯車からもはみ出てしまう、そんな人生が始まったのだ。
何十年とも続く、地獄のような日々が。
『待ってて』
その言葉は、僕にとって地獄の言葉だ。