「ね、今日の空飛べそう!」
真夏の暑い教室で、前の席の彼女がそう楽しそうに笑ってこちらを振り返る。卒業までずっとクラス替えも席替えもなければいいと思った。
"快晴"
テスト用紙の紙飛行機がすいっと飛んで私の机に着陸した。辺りを見渡すと2つ隣の席からひらひら手を振られているのに気付く。離陸時間は3秒くらいだろうか。飛ばし返す自信はなく、仕方なく立ち上がって紙飛行機を返しに向かう。
「こういうのって点がものすごく良いか悪いかの人がやるんじゃない?」
「なんだよ、平均点の奴は青春しちゃいけないのか」
「これ青春の一環としてやってんの?」
「まあ何にしても平均点の紙飛行機は飛ばなさそうだし」と58点と書かれた生物のテスト用紙を返しながら言えば、どこかむっとしたような顔をされた。
翌日64点の歴史の紙飛行機が私の席を越えて飛んでいった。ものすごいどや顔をされたけれど、折り方が明らかに変わっていた。
"遠くの空へ"
ぱくぱくと何度か口を開閉させて、けれど結局何も言えずにぐっと息を飲み込む。言いたいことはたくさんあるのに何一つ出てきはしない。それでも涙は止まらなかった。
すると、そろりと私の目元に何かが当たった。顔をあげれば、友達が目の前で少しバツが悪そうに眉を下げている。
「ごめんね、今日ハンカチなくて」
流れ落ちるばかりの私の涙を自分の袖を引っ張って拭ってくれながら、そう言った。
"言葉にできない"
「春だなぁ、ほら綺麗だぞ」
「もう、そんなにアピールしなくても私はいつでも先輩のこと綺麗だと思って見てますよ」
「俺じゃなくて桜を見ろ」
"春爛漫"
ただひとつ微笑めば、誰もがあいつに優しくなった。ただひとつ溜め息を溢せば、誰もがあいつに手を差し伸べた。ただひとつ頬を膨らませれば、誰もがあいつの味方をした。ただひとつ、ただひとつ、ただのひとつ。そのひとつで、あいつは全てを手にする女だった。
「覚悟しておいてくださいね」
俺の手を掴んで、異常な至近距離で、それはそれは美しく、微笑んで。
あ、食われる。
本能的にそう思って、ゾッとした。
"誰よりも、ずっと"