僕の名前はユウ。男である。
好きなものはピンク、フリルのある服、リボン。
「ユウくん、ピンクのランドセルなんて恥ずかしいだけよ。男の子はこっち。」
その日から僕は黒が好きになった。
「ユウくん、フリルのある服なんて女の子の服よ、
シンプルなシャツはどうかしら?」
その日から僕はシンプルなものしか着なくなった。
「ユウくん、いい加減にしなさい。男の子なのにアクセサリーなんか集めて…これは全部没収するからね。」
僕の名前はユウ。男である。
すきなものは黒、シンプルな服、…それだけ。
嫌なら嫌と言えたらいいのに。
、不完全な僕
鏡を見て、化粧をする。それが女の子の日常である。
二重を作って、涙袋に星をつけて、
花より弱い乙女を作る。
乾かすのがめんどくさい長い髪。
160℃の拷問にかけ、可愛さを作る。
お気に入りのワンピース。
気分だけは西洋のお嬢様になる。
鏡の前に立つ。
数時間前はパジャマでダメな女だったのに、
“みんなの理想である女の子”が作れてる。
みんな甘い匂いが好きでしょう。
髪に香水をふる。歩く度に“女の子”の跡を残すのだ。
私自身が消えてゆく。
遺書の笑顔を忘れずに。
、香水
キミには直接言えなかったけど。
ただ手を繋いで欲しくて
ただ君に笑って欲しくて
ただ一緒にいて欲しくて
全部空回りみたいだったけど、
君と幸せになってみたくて。
最後にごめんね。
どうかボク以外と幸せになってください。
、言葉はいらない、ただ……。
無駄に暑い夏、節約のために窓を開けた日。
初めて君が僕の部屋に来た。
一目惚れだった。
もちもちのはだ、白い毛並み、
見透かさかれる様な青い瞳に、赤い首輪。
…首輪?
飼い猫じゃないか!!!!
うちの子にしちゃえと思った挙句に無理だなんて…
飼い主でも探すか、
日傘でもさしてビラでも探しにいくかな。
窓を閉め、訪問者のためにクーラーをつけ、
僕は部屋を出るのだった。
、突然の君の訪問。
ざぁざあ、水が落ちてくる。
バイトの帰りに突然大雨降られたもので、急遽、雨宿りをしている。駆け込んだ場所は、シャッターの降りた定休日の花屋だった。人の邪魔にもならず、雨が止むか、緩むかを待ち続けることができる。これだけ激しい雨なら通り雨だろうと自分に言い聞かせ、濡れた足を見る。今日もまたイマイチ運のない自分を恨んだ。
雨が止まないなか、ふと、考えつく。擬音だけで状況を表せるのは日本語だけという可能性。オリジナルの擬音を作れば、表現の用法が広がるのではないか、それとも、細いコマをランダムに並べれば雨に見えるのではないか、などのくだらない妄想をするにはピッタリの状況である。いいや、やめよう。もう諦めたのだ。才能のない脳では食っていけないと。
その言葉で思い出したかのように、背中にしょった無駄に大きなリュックの中からB4サイズの茶色い封筒を取り出した。しまった、入れっぱなしだったのかと今になって思い出す。水によって変色していないかを確認した後、暇つぶしにと中身を取りだしてみる。中身は、私が書いた漫画の原稿だ。数週間前に出版社に持っていった原稿そのもの。あの時はめちゃくちゃ酷評された。
「キミのは売れないよ、単純に面白くないんだもの。」
自信作を選び、努力し、手を汚した日々を否定した
この言葉が1番くらった。
ただ、流石はプロの漫画家を支える編集部。改善点をあっという間に伝えるだけで、私の作品はよりランクが上がった、という結果を残した。それが、作品がおもしろくないテンプレ通りだったからなのか、編集者の頭の回転が早かったからなのかは未だに分からない。前者だったらと考えるだけで気分が沈んでしまう。
ひとつ、ひとつ、知っているページをめくる。綺麗に描けた場所、改善が必要だったバランス、全てを抱きしめるような感覚でめくっていった。世界の色を奪った邪龍を、勇者が成敗しに行く物語。
私のせいで、くだらないと言われた物語。
どしゃどしゃ。邪竜の怨念を押し出してくる。
「色が何をくれたのだ。黒龍の私を畏怖した愚か者は私に赤黒い傷のみ与えたのだ。こんな事が許されるとでも?」
色を奪った邪竜は、格下の人間に傷をつけられたことが玉に瑕であったのだろう。己のプライドのために、世界を犠牲にできる力を携えておきながら。
ざぁざあ。主人公が流れを変える。
「それはお前が人の命をおもちゃのように扱い、殺し続けてきたからだ!!白黒の世界なんて、オレが全部壊してやる!!」
7色の剣を掲げ、邪竜に突き刺す。
邪竜を倒し、世界には色が戻り、平和になる。
これが白黒の原稿では読者に伝わりにくかったのだ。
良く考えれば、分かっていたのかもしれない。
ぽつぽつ。なんやかんやで主人公がハーレムを作った。
…うーん。ちょっと詰め込みすぎたかも。
ヒロインがちょっと目立たなくなってる。
主人公も嫌な奴に見えるかもしれない…。
そんな反省点を考えながら、ハッとして前を見る。
本当に通り雨だったのか、少しずつ空が見えてきた。
こんなに時間を浪費できる能力があったなんて。
もうそろそろ帰らなくては。素早く片付けを済ませ、
濡れた足で自宅へと駆け出した。
雨に佇む