10日目
どんなにつまらないことを言っても笑ってくれる彼女が俺は大好きだった。
彼女と笑っている時間が俺にとっては何より大切で、宝物で、幸せだった。
そんな幸せにもいつか終わりは来る。
6年前、彼女が死んだ。
買い物帰り、酔って居眠り運転をしていた車に轢かれ、彼女は呆気なく最期を迎えた。
幸せだった日々が、突然終わりを迎えた。
そのショックで家から出ることも出来なかった俺を同級生の女の子が毎日お見舞いに来てくれた。
その子も、くだらないことで笑ってくれる彼女に似た優しい女の子だった。
今では俺の奥さんで小さなもう一つの手を繋いで歩いている。
人生とはどんなに幸せな瞬間でも、運が悪ければ一瞬で壊れてしまう。
そんな恐怖と毎日戦いながら俺は、俺たちは生きている。
だから、1日1日を、つまらないことでも笑ってくれる妻の笑顔を俺は今日もこれからも、死ぬまで大切にしていきたい。
9日目
目が覚めるまでに、私の人生全てがリセットされていたら。
目が覚めるまでに全ての記憶を無くせていたら。
どれだけ楽なことだろう。どれだけ人生が楽しくなるだろ。
目が覚めても現実は現実。何ひとつとして変わること無く進んでいる。辛く、重たい人生が、目を覚ますと始まる。
このまま目を覚まさなかったどうなるだろうか。
このまま夢の中に居続けるとどうなるだろうか。
幸せに、なれるのだろうか。
どうか、夢の中だけでもいいから、目が覚めるまでは、幸せな夢を見させてください。
そう、何度願っただろう。
8日目
『もし明日晴れたら、晴天だったら君の元へ羽ばたこう。』
そう決めてから、何度『明日』が過ぎただろう。
元々晴れる日の少ない私の街は雨の日が毎日続いた。
晴れるのが年に数回しかない私の街で、私の生きがいだった親友は死んだ。私を置いて自殺した。
その日は年に数回しか晴れのない中で1番の晴天だった。
私は親友がいなくなり、生きる意味のないただの『人』の形をした生き物になっていた。
こんな世界で生きるくらいなら、私は親友の元で幸せに生きたい。
ただ、そう思いたった日から晴れの日が無くなった。
親友が私に死ぬなと言っているかのようにタイミングよく晴れの日は無くなった。
晴れの日がこないとわかっている今日も明日も、来年も、死ぬまで思い続けよう。
『もし明日晴れたら、晴天だったら君のことを忘れよう。』
7日目
あなたの澄んだ瞳に映っているのは、私ではなく、別の女の子だった。
私もあの子もあなたが好き。
(私の方があの子より先にあなたを好きになったのにな。)
でも、私があなたを好きなのと同じくらいあなたもあの子を思っているなら。
誰よりも幸せにしてあげて。
私は、あなたの幸せしか願っていないから。
そう、もう私の映ることのないあなたの澄んだ瞳に呟いた。
6日目
『お祭り』に行けることがみんなにとっての日常であるなら、私にとっては非日常だ。
体が弱い私は人の多いお祭りには行ったことがなかった。
クラスのみんながお祭りを楽しんでいる中、私は1人ベットの上で本を読んでいた。
今年こそはお祭りに、そう何度も何度も祈ったけど、お祭りに行けることはなかった。
でも、今年の私の非日常はいつもとは違った。
いつもは見えないはずの窓から花火が見える。
部屋の扉がコンコンと2回鳴った。
「どうぞ。」
扉を開けたそばに1人の男の子が立っていた。
「行ったことないって言ってたから、食べれそうなの買ってきた。」
そういい机の上に屋台で売っているカステラを広げた。
初めて食べる屋台のカステラは、口の中でとろけるような甘さを出し消えた。
ずっと願っていた夢が今叶った、その瞬間視界は透明の水でいっぱいになり、ポロポロこぼれ落ちた。
私の横に座っている男の子が私の手をゆっくり握りこう言った。
「来年は絶対一緒に行こう。俺は、君のことが」
私は最後の言葉を聞くことも無くその男の子に「ありがとう」とそっと微笑み静かに病室のベットで目を閉じた。