無数の腕がおまえを掴む
まるで我が子を抱き締めるように
私の知らない顔を知るように
おまえが冷めた飯をかきこむ頃には
人々が心をそこに 捨ててゆく
愛すものには罪がないのに …
今日 窓に黒い影はへばり付いていない
耳が遠くなる 足も 自然と遠く
分厚い天文学の辞書 表紙を撫でる
もう何も知りたくない
私は、彼の脳が月に盗られてしまわないか心配で眠れない。
彼は本当にうつくしいから、月の神が私から遠ざけてしまうのだ。彼の、心も、その夜の夢も。
彼の為の罠など月の前では腐りかけた洋梨と変わらない。
真の白昼夢が甦るのはこの夜でも、月の監視下にある額の膿の中でもなく、彼をいちばん愛する月たる私の腕の中でもなかった。未来永劫など衆目に晒されたところで末路が変わるはずもなかった。彼は本当に夢の中。彼は本当の夢の中。
目の前で堕ちた、一昨日を二年半後に知らせに来る白鷺は、月に辿り着けずに未来に死んだ。
私に見栄を張る朧雲など気にも留めないが、あの死は実に有意義な来るべき日を示し、彼を抱いて逃げてゆく。気に病み追うことも憚られる月のなかの私は彼の邪な心に住む、まるでhom-whiotの逆さに生えた羽の様に!
暗く燃えた蟹の屋敷には男が住む。女が住む。子供が住む。月は話せなくなる。
あれはおまえが望むもの
総ては日が沈む浦に
おまえの望むままに
手足が腐り始めている
末端から 神経を病んで じわじわと
蒙昧なおまえは 脳 脳 脳
蛆が恥骨より這い出す音
落ちたナプキンを拾わなかったから
なめらかな時間の中で
硬い血を出して 背中から倒れる
完全に正しくない ですから
抜けてく言葉が 心地好くて
つらつらと吐き連ねる
あたしと骨のない人のようになって
肉のひとかけら血の一滴にも染み渡る
蛮者の言伝
救ってやろうか
それとも
理解してもらえないから死にたいんだろ