我が罪を写す部屋があり
往来の人々は皆その部屋を見ない
箪笥いっぱいに詰め込まれた
人をも殺す好奇心
誰もかれも その鍋でスープを煮ない
誰もかれも 利口にはなれない
泥のドアノブに手をかけ 息を飲む
冒涜に絆された足が己を笑う
小さな切り傷のある足は こう続ける
友よ 老い先は短く
おまえのような馬鹿者は他に居なかった
この先何が起きてもそれは
夏の夜の夢と消える
部屋がすすり泣き、ドアが現れる
血走った目玉が溢れ出す暗い部屋で
私は右足とワルツを踊る
誰も私を見ていない
自分がオブジェの如く佇むそれに触れる前に、目の前の男は手を掴んで止めさせた。
それは悠久のタイムラインの中では些細な出来事でしかなかったが、しかし自分の心を引っ掻きまわった。
彼は、お前に路を違えて欲しくないだけだ、と強がるばかりだったが、同時に今すぐ声を上げて泣き出しそうでもあった。
だが、それがなんであると言うのか。
もはや御託など並べていられるものか。
彼は自分がもう誰の抑止も効果を成さないことを随分前から分かっていたはずだ。
だが。漆黒を艶めかせ、極上の殺気を何発も込められたそれは、自分の恐怖を大っぴらに誘い出すことに躊躇いがなかった。
男は震える指先を悟られないようにしながら、可哀想なほど青ざめた顔でこちらを見つめ続ける。
こんな時でさえも彼の着古したシャツの隙間から覗くむき出しの肌から目が離せないでいる。焦燥の汗が浮き、湿りっぽくなった彼の肉体はさぞ美しいことであろう。
こんな時でさえなければ、自分は今すぐにでも男の腕を引っ張り抱き寄せていただろうに。
もう、何もかもが遅かったのだ。
もう二度と戻れないところまで来てしまったのは、自分だけではなかった。
底なしの欲望
手に汗握る交渉で
やっと手にした生命は虚ろ
笑えない 悪魔の傀儡な断末魔
宵の隙間に姿を消しては
後悔 と指先辿って
誰もあとを見ない
心の臓がたった今に止まるまで
浅い接吻を ただ 終わらせないで
夕陽に焦がされる白い頬
おまえは嵌め殺しの窓を眺め
物憂げに机の木目を指で辿る
点と点を繋いだその時
はっとして椅子を引いた
気がついた時にはもうおしまいだった
珈琲を飲めない青白い顔の女
磨りガラス越しに心臓を叩いた
その音がおまえを呼び起こしたのだ
穢れた誘惑
盲目の巨人の足元に浮かぶ炎
人の病が治らない
白々しい顔をして みな不死身のくせに
狼狽えて床を叩けども
手が口々に弾け飛ぶ
己の恥ずかしい箇所を、
暴いて、触って、舐め回して、好き勝手に
蒼い病魔が精巣を吐き散らして唾を塗った
手垢をたくさんつけてベッドの下に眠っている
それがどうして愛と呼べるか
それがどうして憎と呼べるか