noname

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7/3/2023, 3:08:57 PM

 廃屋の隅に息を潜める。埃まみれの寂しい板の間に座れば、我が家のような心地よさ。割れた壁の隙間、隙間、隙間を眩しい光線が貫いて、漂う塵を星のようにきらめかせた。
 朽ちた天井をくぐってのぞく空は、高すぎるほどに青く、はねつける熱で肌を拒む太陽など、直視できるはずもない。うなだれた胸の内を抱え、瞑った目のまま私は祈る。

 墜落せしませ、イカロスよ。

 傲慢な勇気と、敬虔な好奇心にあこがれて、私はこんな薄暗がりで君を待つ。羽もないのに、腕を広げて。



【日差し】

7/1/2023, 1:10:53 PM

 つとつとと、ガラスを打つ雨の色。濡れた曇天がしずくになって、この目が捉える先からこぼれ落ちていく。
 出会って、気づいて、別れの言葉もいいそびれ。人混みにかき消える気配のように、アスファルトの上、形をなくしてどこかへ流れていく透明なひと粒たち。
 どれが彼で、いずれが君か。あいつはどこかへ、あなたは彼方。たった私はぽっちで一人。ないまぜの気持ちのままに窓を見る。
 薔薇の葉が深く緑に泣きながら、花弁が雨をすすって空を請うている。紫陽花にすればよかったと、カタツムリの殻からため息がこぼれていた。
 陰る彩りに陽光恋しく、瞬きの裏に刺す鮮烈なあの日の君を、面影を。目に目を見返す、映り込んだ私の影のその外へと、いまだ夢に見る。


【窓越しに見えるのは】