「美しい」
あなたの迷いながら、傷付きながら進んできた道を誰かが否定するなら、私はただそばにいようと思う。私はきっとそうする。
ときどき弱気になって、諦めたくなったときは、立ち止まったあなたと一緒に休んでみようと思う。私はそうするでしょう。
信じて歩き続けている途中で、もっと綺麗なものを見つけたら、あなたの手を取って少し寄り道してみようとも思う。そんな私でありたい。
どんなにもがきながら生きても、何が正しいのか分からない。何度も同じような朝を迎えて、夜に眠る。これでいいのか分からない。なのに、不安と自信の曖昧なこの境界を、美しいとも思った。
「この世界は」
この世界は、思っているより綺麗だと思う。
私はときどき、常に前を向いていないと、置いていかれそうなところで生きていると思う。私を追い越していくのは、いつも目に見えないものばかりで、時間、他人の視線、過去の評価や自信とか、そういうもの。
不思議なことに、そういうものたちに気付くたび、止まることが出来なくなる。いつの間にかもっと進まなきゃと、不安や焦りが追い付かないようにただ前を見る。
そうやって前を見ていたら、涙で前が見えない日や、呼吸ができない日がくる。ああ、限界かもって心が折れそうになる。待っていても、報われなかった努力や、無視してきた気持ちはなかなか追いついてこない。
正直、その間生きることが怖くなる。自分が生きている世界が汚く見える。少しの間だけ、消えてみたいと思ったりする。なのに、ただ一つ差し出されたチョコレートとか、小さな手紙の頼りない言葉のひとつ一つで、この世界は美しい場所だと思ってしまう。だからきっと、私は明日の朝も、目を覚ます。
「どうして」
私はどんどん汚くなる
あなたに選ばれたこと
一緒にいようと言ってくれたこと
幸せだと言ってくれたこと
相手のことを心から好きになって、大切にするなんてできない。私が一番大事なのは、いつも私自身だったから。
なのに、選ばれたい、受け入れてほしいと望んでしまった。虚栄と高慢が澱んだ私の、表面の透明だけ。
あなたとの最後は、澱みそのものだった。隠していた全て、心が揺らぐほど汚いもので濁っていた。どうしてなんて言える側じゃないのに。どうして、記憶だけはカメラロールみたいに、綺麗なものだけ残していられるんだろう。
「夢を見てたい」
嘘をついた。
ペンケースなんて忘れてないけど、シャーペンと消しゴムを借りた。
一緒に帰る約束なんてしてないけど、先週から約束してただろって言った。
忘れるわけなんかないのに、ペン返し忘れてごめんって連絡をした。たくさん悩んで打った文字。
そうだっけとか、忘れてたとか、ごめんとか。そんなことばっか言わせてごめん。僕が嘘をつくから。こんなことしなくても、僕たちは一緒に帰れるし、ペンだって借りられる。そんなこと分かってた。けど、友達だったらしなくて良くて、友達じゃない特別ならするようなことが、僕には大切なんだ。だって「僕」だから。
嘘をついた。
ずっと友達でいてよって。あぁ、当たり前だろって言うんだろうな。夢を見てた頃よりずっと苦しいな。でもこれがきっと最後の嘘。
「ずっとこのまま」
このままでいいと思ったことなどない。方向の分からない努力でも、ひたすら重ねる。そうすれば、自分が少し周りの人より優れていると思えた。劣っていると思いたくなくて、特別なところがないと思われたくなかった。
ただ息をして笑っているだけで、生きているふりをするような人をみては、勝手に腹を立てた。
ごまかすほど、よく分かる。私だけは、切らなくてもよく知っていた。紅くて艶のある美しい林檎の中が、ずくずくと腐っていること。
こんなふうにしなくても、自分を好きになりたい。カケラでも、皮一枚になったっていいから、腐った全てを捨ててしまいたかった。あまりに遅すぎたかもしれない。でもずっと、このままでいいはずがなかった。