記憶が無い。
暗い箱に鎖で繋がれた老若男女たち。
僅かな隙間から差し込む光が、教えてくれる絶望。
自由を奪われた俺は、人生のどん底にいた。
無駄に響く馬の足音すら、聞こえなくなっていく。
涙も枯れ、反旗を翻し、立ち向かう気力もない。
突然、視界が真っ白になる。
馬車は止まり、護衛兵は地に伏し、鎖は解かれている。
「いったい、何が…」
久しぶりに顔を上げる。
そこには女神が立っていた。
「生きているか?お前たち!」
俺は記憶を思い出す。
最愛の人を騎士に略奪され、罪人にされた屈辱を。
結婚を誓い合った"あの夏の忘れ物を探しに…"
「なあ、テレビのリモコンどこ?」
「え?いつものとこにないん?」
「無いから聞いとんよ、どこ?」
「そんなん言われても、ママ触ってないで」
「もう、どこやったんよ!」
「だから知らんって。いや、アンタ…」
「なに?」
「"ここにある"やん」
「あぁ」
この会話、人生で何回したかな?
「ダメかぁ…」
今まで以上の自信作が、予選落ちした。
10歳から続けて、20年が経った。
作品数233、書いた文字数78,023,611。
最高記録が、最終選考落選…。
流石に、文才が無いと断言できる。
世に自分の作品が出るのを夢見てはいるが…。
あと一歩、だけ。
頑張ってみようかな?
なんてね。
何もしないで終わった1日。
何かしないと変わらない。
変われない自分が嫌になっていく。
何をしたら良いのか、
どこに向かえばいいのかも分からず、
悩み、嘆き、苦しみ、怒り
悔しくて涙するしかなくて……。
そんな時に手を差し伸べる君がいた。
輝こうと足掻き、立ち向かい続ける君に助けられ、
一緒に、君と飛び立とうと。
『泡になりたい』
地上に憧れて……。
何度も、何度も、歌い続けて……。
振り向いてくれても……。
泡になって消えていくのに。
貴方だけは私に答えてくれて。
私を連れ出してくれたのに。
私を残して貴方は逝ってしまった。
もう、海には戻れない。
泡になりたい……。