記憶が無い。
暗い箱に鎖で繋がれた老若男女たち。
僅かな隙間から差し込む光が、教えてくれる絶望。
自由を奪われた俺は、人生のどん底にいた。
無駄に響く馬の足音すら、聞こえなくなっていく。
涙も枯れ、反旗を翻し、立ち向かう気力もない。
突然、視界が真っ白になる。
馬車は止まり、護衛兵は地に伏し、鎖は解かれている。
「いったい、何が…」
久しぶりに顔を上げる。
そこには女神が立っていた。
「生きているか?お前たち!」
俺は記憶を思い出す。
最愛の人を騎士に略奪され、罪人にされた屈辱を。
結婚を誓い合った"あの夏の忘れ物を探しに…"
9/2/2025, 3:31:05 AM