「夢を見ていたい」
夢を見ていた。
幸せな夢。
夢の中ではみんなが仲良くしていて
争いなんて起こらない
妬みも、恨みも、憎しみもない
誰も傷つかない、誰も悲しまない、孤独に嘆くこともない、いじめも、虐待も、貧困も、
苦しいこと、悲しいこと、辛いこと、苦しいこと
何一つないそんな澄みきった清い世界。
私はそんな世界の住人の1人
友達も沢山いて、悩みも、苦しみも、辛いこともない。
みんな幸せで、みんな笑顔
この世界に住む人はみんな優しくて、暖かい
もちろん無愛想な人や冷たい人もいるけれど
ほんとは私を想ってくれている事を知っている。
だってこの世界は私が作り出した世界なのだから。
夢を見るために、現実から逃げるために、この世の中を生きていくために
私が作り出した、甘くて魅惑的な綺麗な夢
不気味なほど穢れひとつない世界
怖いくらいに、清い世界。
夢だから、汚れていない。
夢だから、現実味を感じない。
それでも自分が満たされれば、夢を見ることで辛さを紛らわせるならそれでもいいと思った。
でも、夢を見れば見るほど、現実から遠ざかっていくことに気づかなかった。
夢は所詮、深く傷ついた傷を被せるだけ。
空いた穴を外から被せるだけ
夢だけでは空いた穴が埋まらない。
所詮は夢なのだ。
自分の作り出した世界は自分の期待を裏切らない
シナリオに忠実で、単調で、意外性の欠けらも無い
努力せずとも相手が応えてくれる
返ってくる答えも私が知っている言葉ばかり
本当の幸せに勝てるわけなかった。
むしろ夢から戻ってきた時に余計傷つくばかり。
一時甘く幸せな夢を見れる代わり、夢から覚めた時、余計傷が深まる。
それでも、抜け出せないのは依存してしまっているから。
辛い現実から逃げたいから。
傷つく度、夢を見る
夢を見る度、傷が深まる
その繰り返し。
そして今日も幸せな夢を見る。
いつか誰かに止められる時まで、幸せに気づくまで、甘い夢に釣られ何処までも堕ちていく
「ずっとこのまま」
永遠なんてない
その事を私はよく知っている
いつかは変わってしまう、終わってしまう永遠を
止めるすべを私は知らない。
だからせめてもの情けに願ってしまう
叶わないとしりながら
意味が無いと分かりながら
それでも今日も願ってしまう。
まるで心に言い聞かせるように、想いは叶うんだと、そう自分を鼓舞するように。
せめて心の中だけは永遠に居られるように
楽しい思い出で埋められるように
いつか永遠が終わる時が来ても
笑顔で最期を迎えられるように
今、幸せと思うなら、
今がずっと続いて欲しいと思うなら
今をめいっぱい楽しんで、
思い出を沢山残して、頭の中に入り切らない全ての大切な思い出を写真や日記に描き記そう。
今は二度と来ない
いつかは消えていってしまう
でも忘れない限り、ずっと心の中で、思い出の中で生き続ける。
信じる限り、消えやしない。
永遠じゃないから大切に思える。
ずっと続かないから幸せと思う。
皮肉な事にずっと続く幸せは、幸せじゃなくて当たり前、日常になってしまう。
だから幸せと思えるその時間は苦難を乗り越えてきたからこそ分かる一時の幸せ
いつかその幸せが当たり前になっても、
日常と化しても私はその限られた時間の幸せを
忘れやしない。
だから今日も当たり前と化してる幸せな一日を記録に収めよう。
「寒さが身に染みて」
冷たい
痛い
苦しい
辛い
彼処に行くと体が強ばる
体温が下がり凍えるように指先や足先が
紅く染まり、手を握たり開いたりしてみても
感覚がなくなる。
背筋が凍る思いで重たく感じられる戸を開ける
あぁ、これだ。
冷たい視線、拒絶するような顔、静まり返る空間
震えそうになる体をなんとか留めて私は1歩を踏み出す。
下を向いていよう。
自分の机までの距離がとても長く感じられた
机に座った時、思わず声が出そうだった
机の中が酷く荒らされていた。
あぁ、またこれか。
一瞬、驚いてしまったがいつもの事だった。
渡されるプリントはどこか破れていたり、くしゃくしゃになっている。
机の中にあったはずのプリントは床に落ち、踏みつけにされる
彼処に持っていく私のものは何処か汚れていく。
物を隠されたりもした。
机を離されたり、掃除の後、私の机だけ元に戻ってなかったり。
陰口、悪口なんて当たり前。
そんな中、放課後あの人達にトイレに呼び出された。
何かあるだろう事は分かりきっていた
それでも従ってしまうのは
後々どうなるか知っているからか、勇気がないからか、自分でもよく分からない。
トイレに着くと、何やら盛り上がっている様子の彼女達が私の存在に気づくとニヤニヤと不気味な笑顔を向けてきた。
何やら喋っている彼女達を置いて私は限界だった。恐怖、不安色んな気持ちが渦巻いてまた体が震えそうだった。
何より今は放課後。生徒は帰ってしまっただろうし、先生の見回りも部活後だろう。
部活もあるしは早く要件を済ませないといけない。そう思うと不思議と落ち着けた。
そんな私を置いてひとしきり話し終わったのか
彼女達が嘲笑っている中、私は状況を飲み込めずにいた。
どうしよう、恐怖のあまり彼女達の話しを聞いていなかった。
何をするのか、彼女の取り巻きの1人がバケツに水を組み始めた。
そんな取り巻きを置いて彼女が私に向き直り
トイレの個室に入って個室の鍵を閉め座るように言ってきた。
私は疑問に思いながらも個室の1つに入り
鍵を閉め、座ると外から聞こえてくる彼女達の声がよく聞こえて先の恐怖のばかりが募った。
しばらくして水を注ぎ終わったのかキュッと蛇口を閉める音がするとガタガタと別の音がする。
しばらくして、ガタンと音がすると体が一気に冷えていく感覚に襲われた。
思わず声を上げる。
水をかけられたのだ。
彼女達の笑い声が頭の中に響いてパニックだった。
そんな私を他所にパシャッという機械音が聞こえる。
思わず頭が真っ白になった。
しかもその機械音は上からしたのだ。
思わず上を見上げると隣の個室から顔を出しスマホを持って可笑しそうに、面白そうに、蔑むように電子音を響かせる。
あとから考えれば、なんでスマホを持ってきてるのかとか、どうやって覗いてるのかとか、聞きたいことも言いたいこともいっぱいあった。
でも、やられた事の絶望感で頭がいっぱいだった。
真冬の水は酷く冷たくて、それがまるで彼女達のようで心身ともに冷たさが刺さるように侵食していった。
「20歳」
昔は早く成人したいと思ってた。
でも今は違う。
変わってしまった。
20歳という節目を迎える事に対してマイナスな意見ばかり出てしまうようになった。
更に追い討ちをかけるように少し前までは20歳だった成人が18歳に引き下げになってしまった。
18歳になるまで、もう片手で数えるくらいしかない。
確実に迫り来る感覚に焦りや不安は募るばかりだった。
したい事、やりたい事、やらなきゃいけない事、まだ何も出来てない。
将来どうしたいだとか、なりたい職業なんかもまだ決めていない。
こんなあやふやな状態のまま成人したくはない。
それだけじゃない。
私にとって成人することに対してメリットを今、感じる事がないから成人したいと思えない。
お酒もタバコもしたいと思わない、夜中まで出歩きたいとも思わないし、お金も今はまだアルバイトでいい。
成人しても自由になる訳じゃない。
むしろ、大人になるということは自分の行動1つ1つが全て自己責任になり、大人だから出来て当たり前というレッテルを世間から貼られるのだ。
20歳という節目を迎えた時、名ばかりの大人になるのだ。
20歳になったからといって急に大人になる訳ないと思う。
体は追いついても心が追いつかない。
それでも大人とされてしまう。
いつかは成人してしまう。
それでもまだ子供でいたいと思った。
まだ心の準備も心構えも出来ていない。
世間からそういう目で見られるということが
理解はできても納得出来なかった。
将来の不安が募るばかりで、一向に心は晴れそうになかった。
ただ日にちだけが過ぎていく。過ぎていく日は
どれだけ願っても止まってくれない。
今日もまた日にちだけが過ぎていく
やりたい事、したい事、しなきゃいけない事
進展しないまま、出来ないまま
20歳に刻々と近づいていく。
待ってくれないのなら、今を必死に走るしかない
迫る時間から必死に逃げるように私は今日も
目標に向かってただ走っていた。
「三日月」
満月より欠けている月の方が好きだと思った。
満月も確かに綺麗だが、まるい月はあまりにも綺麗すぎて親近感が湧かない。
月に親近感も何もないかもしれないが、欠けている方が身近に感じられる。
無意識に人と月を重ねてしまったのかもしれない。
完璧な人よりも、どこか苦手な部分や嫌いなものがある人の方が身近に感じられる。
完璧な人が悪いと言っているわけではない。
ただ雲の上の存在なきがして親近感が持ちにくい。
月も人もどこか欠けている、欠点があるからこそ、より美しく見えると思った。
弱みや苦手も時には隠さずさらけ出した方が、
その人がより美しく輝く時がある。
欠けてる月も、少しづつ日を重ねる事に丸くなっていく。
その過程が、人でいう努力の過程のようで少しづつ成長していくそんな様子を表しているように感じられた。
逆に満月から少しづつ欠けていく月は、困難や苦難が襲いかかり調子が出ない時期なよう。
それでもいつか必ず満月になるのだ。
努力はいつかどんな形になろうと報われる、
そんな事を教えてくれているように感じた。
夜空に輝く月を見てそんな妄想をしてみた。