カラフル
「いや待って」
「え?」
大皿に盛ったロールキャベツをテーブルに置いた瞬間、××が顔を手で覆った。俺はその行動の理由が分からなくて首を傾げる。
「何、どしたの」
「違う、どうしたのって聞きたいのはこっち」
「え?」
いつもコンソメスープで作ってたから、たまにはいいかな〜と思ってクリームスープにしたんだけどダメだったのかな。××はコンソメ以外のロールキャベツは認めない派?
「これ、どうしたの」
「どうっていうのは」
「色」
「ああ!」
ぱんっと手を打った俺はすぐに納得した。そう、今日のロールキャベツは青色なのだ!
「食紅だよ、食紅」
俺は台所に入って、カウンター越しに小瓶を見せる。体を伸ばした××に渡すと、不思議そうな顔をしながらまじまじと見た。
「しょくべに」
「そう。職場の人がくれたからさぁ、せっかくなら使いたいじゃん?」
「食べられるのか?」
「食べられるよ! お前なぁ」
席に着いて、缶ビールのプルタブを起こす。グラス2つに分けて注いで、1つを××の前に置いた。
食紅の小瓶にまだ意識は引っ張られているようだけど、××はビールの入ったグラスを持つ。乾杯といただきますは合わせるのが俺たちのルールだからだ。
「味見もしたから大丈夫」
「青いんだよなぁ……」
「明日は白玉団子に色つけるから」
「んんー」
「カラフルで可愛いぞ〜」
××の眉間にシワは寄ったままだったけど、ロールキャベツを一口食べればすぐに消える。な? 美味いだろ?
得意げな俺に××は少し笑って、ごめんと謝った。
「明日の白玉団子楽しみになってきた」
「フルーツ缶もあるからね」
「豪華だなぁ」
せっかくの休みだもん、美味しいもの食べたいからね!
楽園
「おかえりー」
玄関を開けると××がリビングから顔を出す。
「ただいま」
と返事をすると、ぱたぱたとスリッパの音を立てて××が廊下を歩いてきた。靴を脱ぎながら、俺の目は××に釘付けだ。待て、お前が着てるソレ、俺のパーカーだろ。
「ちょうど今、ロールキャベツ出来たから」
「ん」
ぎゅう、と××を抱きしめた。可愛い。可愛すぎる。反則だろ。すーはーと深呼吸を繰り返すと、××が俺の腕の中でくすくす笑う。
「何、疲れてんの?」
疲れてはいる。休日出勤なんて意味分からないことをしてきたのだ。疲れてはいるが、今、この瞬間、全てが吹っ飛んだ。ここは楽園か?
「最高……」
「へ?」
××に頬擦りしながら小さく呟く。口にするつもりではなかったが、出てしまったのなら仕方ない。腕に力を込めて、××の香りで胸をいっぱいにした。
「おい? マジで疲れてんの?」
「疲れてる。××によしよししてもらわないと動けない」
「はあー? っとに……」
顔は見えないけど、××は笑っているんだろう。肩に顔を埋める俺の頭をよしよしと撫でる。嬉しい。癒し。はあー、元気になる。明日は休みだからのんびりするぞ。
そのためにはまず、
「ありがとう。ロールキャベツ楽しみにしてた」
「ん。いっぱい作ったからな」
美味しいご飯を食べよう。パッと顔を上げて、体を離す前に××の額にキスをした。
風にのって
「あ、」
くんくんと鼻を鳴らす。周囲を見渡してから首を傾げる。
おかしいな、今絶対××の香りがしたのにな。
いってらっしゃいのキスのときに、毎日確認するからよーく知っている××の香水の香りがしたのに、肝心の××がいない。すれ違った人もいないから、たまたま同じ香水だったってこともない。
××がいるかと思ったけどそうじゃなかったから、ちょっと寂しく感じてる俺がいる。そうだよな、早く帰ってくるなら連絡入るもんな。まだこの時間に××がいるわけないよな。でもじゃあなんで××の香りがしたんだろ。
「んんー?」
反対側に首を傾げても分からない。スーパーの袋を持ち直しす。ふわりとまた××の香りがして、そこで俺は思い出した。今着てるパーカー、××のじゃん! これに残ってた××の香りじゃん!
急に恥ずかしくなって、それを飛ばすために俺は早歩きになる。くっそー、椅子の背もたれに掛けられていたから、ちょうどいいわって思って羽織ってきたけど、まさか、こんなことになるなんて。
ポケットからスマホを出して××に連絡を入れた。今夜はロールキャベツ。すぐに既読がついて、ハートのスタンプが送られてきた。アイツ、仕事中だよな? そんな暇なの? でも秒で返信が来るのは嬉しい。悔しいけど、嬉しい。
ニヤつく口元を隠すのに手を上げれば、パーカーの袖から××の香りがして、俺は何とも言えない気持ちになる。同じ洗剤で洗ってるのにな。俺も香水つけるようになったら××にこうやって思い出してもらえるのかな。
むむー、今度探してみるかー? でも香水のこと分からないからなぁ。××に相談してみるー?
帰宅した俺はそのまま夕飯を作って、仕事から帰ってきた××を出迎えたら、××のパーカーを着ていることにすごく興奮された。そ、そんなにいいもの? 玄関で××に力強く抱きしめられながら俺は首を傾げた。