友人と、待ちに待ったご褒美アフタヌーンティーの日。
お気に入りのフリルブラウスに袖を通し、それからロングの花柄スカート。ちょっと背伸びをしたくて買った高めのヒールを履くと、心躍るまま玄関を飛び出した。
いつもの場所で、あなたが待っている。あなたも楽しみだったのだろう、小花の咲くワンピースを身に纏い、きらきらのピアスも相まって、こちらに向けた笑顔が一等素敵に輝いた。
色とりどりの花畑をまっすぐ進むと、小さなガーデンカフェがわたしたちを待っていた。お庭のテーブルに広げられたのは、お菓子の乗ったティースタンドと、可愛らしい模様の入った紅茶のポット、揃いのカップ。
注がれた紅茶から華やかな香りがふわりと広がり、ひとくち飲めばもう虜。まだ温かなスコーンを上下に割って、クロテッドクリームをたっぷり乗せて。さらにさらに、小皿のきらきら美しいジャムで、あの花畑を全部乗せてやるのだ。
ぱくりとひとくち。夢見心地で、あなたとわたし。
ああ、このまま、時を止めて!
もうすっかり寒くなってまいりましたね。
冷たい秋風が、首筋や頬をひんやり撫でてゆく。
寒いのはあまり好きではないのですが、この季節に見かける好きなもの、がたくさんあります。
厚手の可愛いニットセーター。
秋色のブーツに、ロングコート。
あのこっくりしたお色味がたまらないのです。
美味しいものもたくさんありますよね。
いも、くり、かぼちゃのお菓子。
ハロウィンだからと、ついつい手が伸びてしまいます。
オータムナルの紅茶が、ついつい進んでしまいます。
ああ、まだ、まだ冬にならないでくださいね。
秋をもっともっと、堪能したいのです。
あなたは、ときおりふらっと気まぐれに、たまたま目にした喫茶店へ赴いた経験はございませんか。
宝石箱みたいな色とりどりのメニューから、せっかくだからと少し冒険をして、今まであまり口にしたことがないものを思い切って注文してみたことは、ございませんか。
もしかするとそれは、『未知』の交差点かもしれません。
知らないものを知り、こんなに美味しいものがあるのか、と喜びを感じることが、あるかもしれません。
行ったことのない『未知』の交差点を、
自分が選び歩いた『道』にしませんか。
ほんの小さな、小さな頃。
緊張で震える手で差し出した、真っ赤な一輪のコスモスを、あなたは憶えているでしょうか。
しらゆりのような佇まいの、うつくしいあなた。
ほほをふわりとばら色に染めて、ありがとう、と。
ひまわりみたいにまぶしくすてきな笑顔を浮かべて、受け取ってくれましたね。
仙人掌の様な佇まいの物言わぬわたしが、あなたみたいな高嶺の花に手など届くまいと、分かってはいたのです。
けれど、どうしてもどうしても、何年経っても、この気持ちを捨て去ることは出来ませんでした。
あなたに大切な人が出来ることは、嬉しいことです。
でもそこに在るのは、わたしでありたかったのです。
だからあなたを、今日この場所へ連れてきました。
真っ赤なコスモスの、花畑。
ありったけの愛情を、あなたに。
仙人掌を見上げたしらゆりは静かに微笑んで、わたしの手を取り、自らのほほへ導きました。
ばら色のほほが熱くて、わたしの棘などどこへやら。
物言わぬわたしの顔色も、つられて赤く染まりました。
仙人掌に、花が咲く。
無垢なあなたのそばで、枯れない愛の大輪を。
赤いコスモス:愛情
百合:無垢
仙人掌(さぼてん):枯れない愛
あなたが大切で大切で仕方がなくて、
愛する、それ故に、言いすぎてしまうのだ。
守ろうとしてしまうのだ。
あなたを害する可能性のある物全てから遠ざけようと、あなたが頑張らねばならないものから目を背けさせまいとして、つい口を出してしまうのだ。
愛しているから。それは紛れもない事実だ。
でもそれは、少しだけ間違っていたのかもしれない。
愛するあなたは、全てから守ってやらなくとも、
頑張るべきものから目を背けたとしても、
あなたなりに一歩ずつ進んでいた。
わたしが何も言わずとも、
知らぬ間に、遥か遠くに背があった。
遠く遠く、小さくなっていくあなたを見送って、
誇らしい気持ちと、寂しい気持ち。
ああ、あなたは、もう守らずとも、ひとりで。