プライドという糸を手放せずに、今の今まで後生大事に握ってきた。
それだけが唯一の救いなのだと信じて、ばかみたいにしがみついて。
そいつが何の得になったというのか。周りの声も手助けも全て無視をして、自分の力だけでここまでやってきたのだと勘違いをして、わたしは上ばかりをみていた。
すぐ隣に救いの階段があったというのに。
手放せなかった糸に足を取られ、ああその様はまさにわたしのことだろう。
おかげで真下がよく見渡せた。糸など捨てた周りの人間が、底から階段を駆け上がってきた。
息を切らせたそいつと、目が合った。
そうしたらそいつはどうしてか、わたしに向かって手を差し伸べた。真剣な顔つきで、階段から落ちかけるほどに体を乗り出して、わたしなどのために。
こんなどうしようもない、呪縛の繭になりかけたわたしのために。
どうして。
ああ、そうか。
あなたはそれを、力に変えたのか。
呪縛ではなく、自らの力として絡め結んだのか。
「ありがとう。すまないが、助けてほしい」
「勿論だとも。さあ、掴まって!」
繭の中から、糸屑まみれの手を伸ばした。
掴んだそいつの手首に結ばれた、
わたしと同じ『糸』が見えた。
まんまるフォルム、フチが緑のマグカップ。
陶器なのでちょっと重いけれど、安定感もあり大容量。
IKEAで出会い一目惚れをして、持ち手の部分にぽつんと点がついた、ほくろのある子を選びました。
ひとやすみのとき、本を読むとき。それから仕事で頑張るとき。たっぷりと熱い紅茶を淹れて、かたわらに置く。
そこにあるだけで元気が出るのです。
買ってよかったなあ。
よく晴れた日の、穏やかな午後。
あなたの膝枕に甘えて、心地よい惰眠を貪っている。
わたしは知っていた。わたしがこうしてあなたの膝で眠ると、あなたは決まって上機嫌で鼻歌を歌うことを。
それがどんな曲なのかはさっぱりわからないし、歌詞だってもちろん知らなかった。けれど、それを歌うあなたの声はいつだって愛らしくて、優しくて、あたたかい。
すこうしだけ目を開けてあなたを見上げれば、あなたはそっとこちらを見て、細い指先でわたしの髪を撫で、やわらかく微笑んだ。
何度も聞いているすてきなメロディを、あなたといっしょに口ずさむ。どんな歌であっても、わたしにとってこの鼻歌は、間違いなくあいのうた、なのだ。
もしも願いが1つ叶うならば、
わたしがどこで間違えてしまったのか知りたいのです。
あなたがはなれていった原因を知りたいのです。
でも、ほんとうはもう知っているのです。
受け入れがたい現実から目を背けているだけなのです。
ああ。せっかくの願い事、
無駄になってしまいましたね。
ずっとずっと、あなたのことを可愛いと思っています。
すれ違いざまにそっと視線を向けると、たまに気づいてくれたりして、とっても嬉しくなります。
栗毛をふわふわとご機嫌に揺らして歩く姿を見かけるたび、幸せな気持ちでいっぱいになります。
そう、あなたのことです。
人懐こいおめめの、そこのあなた。
丸めたしっぽの、そこのあなた。
まろまゆの素敵な、そこのあなた。
柴犬さん、癒しをありがとう。