きつね

Open App

プライドという糸を手放せずに、今の今まで後生大事に握ってきた。
それだけが唯一の救いなのだと信じて、ばかみたいにしがみついて。
そいつが何の得になったというのか。周りの声も手助けも全て無視をして、自分の力だけでここまでやってきたのだと勘違いをして、わたしは上ばかりをみていた。

すぐ隣に救いの階段があったというのに。
手放せなかった糸に足を取られ、ああその様はまさにわたしのことだろう。
おかげで真下がよく見渡せた。糸など捨てた周りの人間が、底から階段を駆け上がってきた。

息を切らせたそいつと、目が合った。
そうしたらそいつはどうしてか、わたしに向かって手を差し伸べた。真剣な顔つきで、階段から落ちかけるほどに体を乗り出して、わたしなどのために。
こんなどうしようもない、呪縛の繭になりかけたわたしのために。
どうして。

ああ、そうか。
あなたはそれを、力に変えたのか。
呪縛ではなく、自らの力として絡め結んだのか。

「ありがとう。すまないが、助けてほしい」
「勿論だとも。さあ、掴まって!」

繭の中から、糸屑まみれの手を伸ばした。
掴んだそいつの手首に結ばれた、
わたしと同じ『糸』が見えた。

6/18/2025, 2:33:10 PM