つまらないことでも
君と、一緒にいたかったんだ。
くだらない話をして、笑い合って、たまにちょっと喧嘩して。照れくさそうに仲直りして、やっぱり君が一番だと再確認して、思うんだ。
隣に座るなら、君がいい。背中をあずけるなら、君がいい。
たとえつまらないことでも、君とならきっと楽しめるから。
私の最も親しい友よ、来世もこんな私に付き合ってよ。
今度はもっと、平和な世界で、君と夕陽を眺めながら駄弁りたい。
目が覚めるまでに
ガチャリ、と扉が閉まり、足音が遠くなって消えていくのをゆっくりと待った。すっ、とまぶたを開けて、音を立てないように起き上がる。
繋がれた鎖の鍵を、音がしないように開けて足を解放する。
閉じられた扉に鍵がかかっていないのは、よく知っている。鎖で逃げられやしないと踏んでのことだろう。
でも、それが好都合だった。
慎重に扉を開き、足音も、呼吸さえも殺して、外へと続く扉に向かう。
どうせ、玄関の扉の音でバレてしまうのはわかっているから。だから、玄関から先は走るつもりだった。
あの人の目が覚めるまでに、少しでも遠くへ。逃げなくては。
逃げて、逃げて。伝えないと、
病室
はぁ、とついたため息が静かすぎる空間に響く。
汚れなんて知らないような白さに囲まれて、少しだけ消毒の匂いがした。
ホームシックのような寂しさと取り残されたような恐怖感。
もう何年もいるような気がするのに、まるで昨日来たかのように頭の中が霞がかっていて。
あれ、待って。なんでここにいるんだっけ。
明日、もし晴れたら
「ねぇ、海行こうよ」
「は……?」
「明日、もし晴れたらさ、海行こう」
そう歪な笑みを浮かべて、彼女はこちらをじっと見つめる。
今しがた、別れ話をしたはずなのに。お互いにそれで納得したはずなのに。
彼女の考えていることがわからなくて、少しだけ怖くなる。
「いいじゃん、最後に思い出作ろうよ」
「……わかった」
そう言葉をしぼり出して、そっと息を吐く。明日だけは雨よ降れ、なんて願っていると彼女の楽しそうな声が届く。
「ねぇ、明日の天気は、晴れだってさ」
ああ、どうか明日こそ、平和に終わりますように。
だから、一人でいたい。
近すぎると見えなくて、遠すぎるとわからなくなる。
誰かに、すぐそばにいてほしいのに、関わりたいわけじゃないんだ。
話を聞いてほしいわけでもない。ただ、誰かがそこで話をしてくれるなら、聞いていたいし、大丈夫だよ、なんて伝えたい。
そんな相反する想いを抱えるから。無理にわかってほしいわけじゃないから。
だから、一人でいたい。
一人でいたいんだけど、独りではいたくないんだ。
各々好きなことをやって、一人の時間を大事にして、でも、独りにはしないでほしい。