冬に炬燵で食べるみかんはいい。
甘くて酸味があればなおいい。
夏に出回るものよりも私は好きだ。
チラシで折ったゴミ箱に皮を捨て、ゴロゴロと過ごすこの瞬間が何よりも至高である。
『みかん』
君が初めて笑った時、世界が僕のためだけに微笑んだようにも感じた。
君のためならば、僕の持つ全てを捧げても良かった。
君はまさしく天使そのものだった。
僕はその眩しいほどの笑顔を写真に写した。
君は彼女に似て儚くも強い芯を持っていた。
君が彼女のように近所の男の子と大喧嘩した時は驚いた。
転んで擦り傷をたくさんつくっても泣かなかった。
僕はその強がってそっぽを向くお転婆な君を写真に写した。
君は学校でも人気者だった。
誰よりも好奇心旺盛で、誰よりも明るかった。
それでもやっぱり隣の彼とは喧嘩していたけれど。
僕は少し恥ずかしがる可愛い君を写真に写した。
僕と同じ背丈になるまでそれほど時間はかからなかった。
僕の背中が萎れただけかもしれないけど。
君と彼は相変わらずだったけど、誰にでも優しくできる子になった。
僕はどんどん綺麗になる君を写真に写した。
君は誰よりも美しく成長した。
君と彼が並んで笑っている。
僕は彼女のその笑顔が滲んで見えなかった。
白いウェディングドレスに身を包んだ君を僕は写真に写した。
君の笑顔は僕の宝物だった。
『変わらないものはない』
まばらに雨が降る音を聞きながら、孤独ではないと嘯く。
誰に言うわけでも聞かれるわけでもないというのに。
炬燵の中はいつもよりも冷たく、そこにいるはずの誰かの影の後じっと眺めている。
これで良い。これで良いのだ。
これが強がりかそうでないかは自分が痛いほど知っている。だが、言わずには居れないのだ。
一時の幻想に過ぎなかったというのに。一度知ってしまった温もりは我が身の髄まで犯し、毒してしまった。もはやここから立ち上がれやしない。ゲル状になった己を情けなくも有り難く感じた。
窓の外はビュゥビュゥと風が吹いている。
彼女に会いたい。今すぐに会いたい。何よりも会いたい。
遠い海の上で働く彼女に。
この時ばかりは縦横無尽に空を駆け巡るサンタが羨ましくなった。
『クリスマスの過ごし方』