真っ白な部屋で、白うさぎが走っている。うさぎを認識した瞬間、部屋は開けた場所になった。どうやら平原のようだ。
急がなくっちゃ、と走るうさぎをなんとなしに追いかける。
ふっ、と突然体が浮いた。視線を足元にずらす。大きな穴が空いていた。
ああ。アリスの夢を見ているのだと思った。
その刹那。体は急落下し、地面に叩きつけられる。
夢とは思えないほどのリアリティを持った痛みが全身を襲った。
うう、と口から声が漏れ、なんとか立ち上がる。
穴のそこは薄暗く、周囲の様子を見にくい。
それでも目を凝らしてみれば、そこには屍。それも一つ二つじゃない。大量に。
屍の中心で、あの白うさぎが踊ってる。
「やったやった。期限内に贄を揃えられたぞ。さあ神様に捧げるぞ」
その瞬間。目が覚めた。
部屋の中は暗く、カーテン越しに車のライトが差し込むだけだ。
なんだ夢。変な夢だった。……あれ? どんな夢を見てたんだっけ?
何故か痛む体を落ち着かせて、再び眠る。
白うさぎは、ジッとこちらを見ていた。
「初恋の相手って誰?」
急に旦那にそう問われ、私は動きを止めた。
平静を装って聞き返す。
「なあにいきなり」
「んー今テレビで初恋のおまじないってのやってたから」
「へえ」
「ちなみに俺はお前」
お前は? と目線で問われ、私は一瞬考えた後笑って答える。
「私もあなたよ」
「そっか」
少し照れた様子でまたテレビの前に戻っていく旦那。
ごめんね。と心の中で謝る。私の初恋の相手はずっとあの人だから。
明日世界は終わる。
そう遠い過去から決まってた。
世界が終わるというのに、多くの人がいつも通り学校や仕事に行き一日を終えようとしている。
ボクもそんなひとりだ。いつも通り学校で友達と過ごした。
誰もが「あした」の約束をしたがった。
誰もが「あした」の話をしたがった。
明日は来るって、信じていたいから。
もし明日世界が終わるなら、アナタはどうする?
あんたと出会ってから私の人生は壊れた。
あんたさえ私の人生に現れなければ。あんたさえ私に関わってくれなければ。あんたさえ生きていなかったら。
私は私は私は私は私は私は。
こんなはずじゃなかった。
こんなことありえない。
どうして私がこんな、こんな……!
呪ってやる。絶対に、地獄を味あわせてやる。
これは私からの祝福だ。受け取らないなんて許さない。
——アイテム【瑠璃の涙】のフレーバーテキスト
このアイテムを所持したものは1週間以内に大運に恵まれ、1ヶ月以内に死す。
ごろりと草の上に寝転んで目を閉じる。草の匂いに包まれて、ゆっくり息を吐いた。しばらくそうしてゆっくり目を開ける。
空は茜色に染まっていて、近隣の家からは美味しそうな匂いが流れてくる。……そろそろ帰らなくてはいけない。
痛む体を動かして、立ち上がる。痣と切り傷と火傷跡を隠すように服の袖を引っ張る。
もうしばらくすれば、最悪な今日が終わって、最悪な明日がやってくる。