【君の奏でる音楽】
目の前の景色を夜空に塗り替え
1音毎に空に星を増やし
迷子の僕らを優しく照らして道標となる
聞かなくていい言葉達が耳に入らない様に塞いで
知るべき知識を与え感情の表現を教えてくれる夢
そんな君の奏でる音楽で歩めば
現実でさえも呼吸がしやすいことに気がついたから
形のないものに君を重ねて見つけるのが上手くなった
だから僕の存在を認めないこんな世界に
僕の吐く息を混ぜ込んでまだ抗える
ほら、今日もこんなにも星が綺麗だ
2024-08-12
【麦わら帽子】
ああ、そうだ、思い出した。
積乱雲を追いかけた夏の日
途中で見つけたひまわり畑で
ひまわりが被った麦わら帽子
茹だる様な暑さの中
現実と夢の狭間さえ溶かされて
麦わら帽子を被る何よりも輝いて
逃げていいよと教えてくれた
僕の手を引いてくれたあの夏の最後の日
2024-08-11
【終点】
拝啓――
僕の終わらせようとしていた地点で
きみは途切れた道の先端に立って
僕には見えなかった幸せになる未来の話を始め
その場所で転げ落ちてしまおうと思っていたことも忘れ
話に聞き入ってしまった
その未来はきみにくっついて
歩くだけで手に入っていたから
明日が自分の手で掴むものだということさえ
きみを取り巻く環境が
変わってからでしか気が付けなかった
「君はどうかそのままでいてほしいんだ」
ぼくときみの理想は一致していたと思った
でもその言葉を僕が言わせてしまっていたのなら
僕はきみと過ごす為の未来を
自分で動きださなくてはいけないんだ
きみの幸せをこころから願って
――敬具
【上手くいかなくたっていい】
見よう見まねで呼吸をした
教室では間違いだらけの世の中は見えなくなるらしい
間違えが溢れかえっているはずの世界で正解を教える
今目の前で間違いが起きていても見えないらしい
人間は人間を真似して成長していくらしい
だけど僕の周りのにんげんが参考にならないことくらい
幼稚な頭でも理解できた
だから僕は一番人間に近いきみに全てを教わった
見よう見まねで呼吸をした
きみと吸う息は吸い込む度に喉が爛れて
きみと吐く息は真っ暗な空間にかき消される
段々とこの搔きむしるような痛みにも慣れてきた
そうだきみからもらったこの身体が尽きる前に
何かお返しをしなくては
そう教室で習ったのだ
どんな音にしても
どんな言葉にしても
どんな表現にしても
どうしてかきみに届けられないよう
僕たちの間にはずっと薄い紙きれが挟まったままだった
こんなに近い距離にいるのに
でも上手くいかなくたっていい
十何年きみが僕に教え込んでくれたように
僕も上手くいくまで試すから
どうか、もう少しだけ僕に時間を
2024-08-09
【蝶よ花よ】
行く当てもなく彷徨っていた
ただ自分が空を飛べることは
地を這う彼らを見て悟った
恨む視線が僕をつつくけど
空が飛べたって行き先が無ければ
この無限と広がる青の中
頼れるものが無くこんなにも孤独だと彼らは知らない
もう翅を動かすのでさえ億劫で
辞めてしまおうと何度思い立ったことか
だけど辞められないのは
触れられない空間の中で
きっとこの甘い香りが鼻を掠めて僕を導くから
2024-08-08