『10年後のわたしから届いた手紙』
先人たちの言葉は今も生きている。
ただし未来から届いた言葉は1つもない。
先人たちの言葉には、重みがある。
もし、過去へ手紙を出せるとしても、わたしは出さない。
手紙を出すことにより、過去が変わりパラレルワールドが発生し、別の次元のわたしがいることになる…それどころか、手紙を書いたわたしは存在しない可能性もあり、そうなると届いた手紙も消えることになるのだ。
そんなの馬鹿馬鹿しいから、わたしは絶対書かないだろう。
仮に10年後のわたしから手紙が届いたとしても、封を切らないでゴミ箱行きだ。
ちょっと、スマホに置き換えて考えてみよう。
スマホの画面に
【わたしは10年後のあなたです。】
なんてメッセージが入ったら、開かないでしょ?
手紙であっても、同じことだ。
過去からの言葉には重みがあるが、未来からの言葉は、怪しさしかない。
それが現実ってもんだと思う。
『バレンタイン』(創作)
2月14日、わたしはパチ屋にいる。
初めて入った。チョコの紙袋を片手に、システムもわからず、何をしてよいのかもわからなかったから、大きなウインドウ側のソファーに座った。独特の喧騒と不思議な匂いが、わたしを拒絶しているかのように感じられた。
店員に怪しまれないか不安になったが、気にしてる様子もなかったので、ソファーに座ったままスマホを取り出した。
「今、パチ屋にいる。着いたら連絡して」
コンビニで買ったチョコの紙袋が、初対面の男性との関係を嘲笑っているようだった。
帰りたい…
心の片隅で小さな悲鳴が上がるが、わたしはソファーから動けずにいた。わたしはわたしを無視して、これから初対面の男性にチョコを渡すのだ。
『待ってて』
家に帰るといつも待っててくれる。
窓から覗いて、わたしの姿を見つけると、玄関の扉の前まで駆けてくる愛らしさ。
うちの可愛い猫さんは、本当に可愛い。
いつか、先に旅立つのだと覚悟しているけど、たぶん実際にその時が来たら、わたしは耐えられないだろう。
想像しただけで、涙が出てしまうくらいだから。
まだ先の話だけど、
「あっちでも、待っててね。」と、切に願う。
猫さんにまた会えるなら、死の淵も明るくなりそうだ。
『伝えたい』
伝えたいことは、何もない。
そう、何もないのよ。空っぽだから。
静寂に耳を傾けていると、わたしの心音が聞こえる。
トクントクン トクントクン
空っぽの心に「あなたは生きている」と、知らせる音。
朧な月を抱きしめて「ありがとう」と、伝えてみるのも悪くないかも。
『この場所で』
職場と自宅を行き来するだけの毎日。
この場所で、スマホを通して、わたしは世界を見る。
小さな世界。碧い世界。拙い世界。迷いの世界。
輝く世界。静寂な世界。文字の世界。
いつもの、この場所で。
このアプリで、わたしの知らない世界を見る。