めい

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8/2/2024, 12:33:12 PM

僕の病室には、折り鶴がたくさんある。
もらったのでは無い。自分で折ったのだ。
正確にいえば、自分と同室のじーちゃんばーちゃんにも手伝ってもらった。
ことの発端は、僕の友達が、
「見ろよ、ガウスルート千羽鶴だぜ!」
だとか言って、31羽の折り鶴を持ってきたことだ。
僕のために鶴を折ってくれるのは嬉しいが、クラスメイトが1人1羽折るという絶妙かつわかりやすいサボりをされてしまい、複雑な気持ちだ。
いや、ふざけて木に登って、体重で枝が折れて落下からの骨折という間抜けな理由での入院だ。くれただけでもものすごくありがたいことなのだ。
それはそれとして、同室のじーちゃんばーちゃんに送られた立派な千羽鶴と比べると、「ガウスルート千羽鶴」は少々見劣りする。
だから、僕はこの「ガウスルート千羽鶴」を本物の千羽鶴にしてやろうと思って、入院中の暇な時間を折り鶴制作に使っているのだ。
一人で969羽折るのは大変なので、手伝ってもらっている。
千羽鶴になったら、クラスメイトに送り返してやろうと思うので、写経の上手いばーちゃんに折り紙に念仏みたいな呪いの言葉を書き連ねてもらった。
入院中の自分のために千羽鶴を折るだとかいう前代未聞のことを僕にさせたクラスメイトには、ばーちゃんの呪いをかけてやろう。
そう思いながら僕は168羽目の鶴を折り始めた。

8/1/2024, 10:14:36 AM

部屋がジメジメしている。
この灼熱の夏に、この湿度の高さは、我々人間を殺しに来ているとしか思えない。
暑くて寝られそうにない。
地球温暖化でここまで暑くなるのか、フリーメ◯ソンの陰謀ではないか、これ以上の気温になって、人間は生きていけるのか、灼熱の星になった地球を捨て去り火星に移住するべきではないのか。
熱に浮かされた頭で変なことを次々と考える。
でも、結局最後に行き着く考えは、
明日晴れたら、布団干そ。

8/1/2024, 10:02:00 AM

走る。これ以上ないくらいの速さで。
友達を追い抜かすたびに声をかけられるけど、その声を振り切って走る。
だって予想外だった。幼馴染のアイツに、中学に入ってから疎遠になってたアイツに、あんなことを言ってしまうなんて。

空き教室でたまたま見かけた光景。
アイツが、他クラスの男子に告白されてた。
その男子は知り合いでも無かったから、特段思い当たる特徴はない。
でも、アイツが告白されてる事実だけで、俺はなんとなく嫌な気分になった。
アイツは男子をフった。俺はこっそり胸を撫で下ろした。
その男子はガッカリした様子で教室を出て行った。
すると、アイツが突然言った。
「覗き見なんて、悪趣味だね」
心臓がドクリと跳ねた。隠れてたはずなのになんでバレたんだと考えていたら、アイツがいつの間にか目の前にいた。
アイツのつむじがよく見えた。
俺は何となく申し訳なくなって、どう言い訳しようかと頭を動かす。すると、
「なんで、見てたの」
アイツが言った。よく見ると、悲しそうな表情をしている。
ヤバいと思ったけど、言い訳が思い浮かばず、沈黙だけは避けようと適当に発言してしまった。
「そりゃ、お前に彼氏ができそうになったら、気になるだろ、幼馴染だし」
ずっと避けてきたくせに幼馴染だとか生意気だ、と思ったが、そう誤魔化すしかなかった。
アイツは納得できない、という顔で言う。
「学校で、一言も話さないのに?」
痛いところを突かれた。
どうにかしてその場から逃れようと言葉を探すも、なかなか見つからない。
アイツは怪訝そうな表情でこちらを見つめる。
黙っている方が辛くなって、つい言ってしまった。
「お前に彼氏ができたら、俺が困るもん」
小声で言っても、誰もいない場所じゃ簡単に聞こえてしまう。
アイツは面食らったような表情をした。
「困るって、なんで?」
ここまで質問されると、恥ずかしさともどかしさでいっぱいになってしまう。
これ以上俺に言わせるのかよ、勘弁してくれ、と情けない気持ちでいっぱいいっぱいになり、勢いに任せて叫んだ。
「お前に彼氏ができたら、俺がお前の彼氏になれないじゃん!」
顔が熱い。多分真っ赤になってる。
元から大きい目をさらに大きく開かせて驚くアイツを置いて、俺はその場から逃げ出した。
廊下にある鏡でちらりと自分の顔を見たら、アイツが昔使ってたランドセルみたいに真っ赤っかだった。

結局直接は告白できずに、アイツに詰められた結果言い逃げするだなんて、ダサいことをしてしまった。
それに、今のこの表情、誰かに見られたら一生いじられるような気がする。
だから、いち早く、1人になりたい。
全速力で走りながら、明日アイツに会ったらどうしようか考えた。