めい

Open App

走る。これ以上ないくらいの速さで。
友達を追い抜かすたびに声をかけられるけど、その声を振り切って走る。
だって予想外だった。幼馴染のアイツに、中学に入ってから疎遠になってたアイツに、あんなことを言ってしまうなんて。

空き教室でたまたま見かけた光景。
アイツが、他クラスの男子に告白されてた。
その男子は知り合いでも無かったから、特段思い当たる特徴はない。
でも、アイツが告白されてる事実だけで、俺はなんとなく嫌な気分になった。
アイツは男子をフった。俺はこっそり胸を撫で下ろした。
その男子はガッカリした様子で教室を出て行った。
すると、アイツが突然言った。
「覗き見なんて、悪趣味だね」
心臓がドクリと跳ねた。隠れてたはずなのになんでバレたんだと考えていたら、アイツがいつの間にか目の前にいた。
アイツのつむじがよく見えた。
俺は何となく申し訳なくなって、どう言い訳しようかと頭を動かす。すると、
「なんで、見てたの」
アイツが言った。よく見ると、悲しそうな表情をしている。
ヤバいと思ったけど、言い訳が思い浮かばず、沈黙だけは避けようと適当に発言してしまった。
「そりゃ、お前に彼氏ができそうになったら、気になるだろ、幼馴染だし」
ずっと避けてきたくせに幼馴染だとか生意気だ、と思ったが、そう誤魔化すしかなかった。
アイツは納得できない、という顔で言う。
「学校で、一言も話さないのに?」
痛いところを突かれた。
どうにかしてその場から逃れようと言葉を探すも、なかなか見つからない。
アイツは怪訝そうな表情でこちらを見つめる。
黙っている方が辛くなって、つい言ってしまった。
「お前に彼氏ができたら、俺が困るもん」
小声で言っても、誰もいない場所じゃ簡単に聞こえてしまう。
アイツは面食らったような表情をした。
「困るって、なんで?」
ここまで質問されると、恥ずかしさともどかしさでいっぱいになってしまう。
これ以上俺に言わせるのかよ、勘弁してくれ、と情けない気持ちでいっぱいいっぱいになり、勢いに任せて叫んだ。
「お前に彼氏ができたら、俺がお前の彼氏になれないじゃん!」
顔が熱い。多分真っ赤になってる。
元から大きい目をさらに大きく開かせて驚くアイツを置いて、俺はその場から逃げ出した。
廊下にある鏡でちらりと自分の顔を見たら、アイツが昔使ってたランドセルみたいに真っ赤っかだった。

結局直接は告白できずに、アイツに詰められた結果言い逃げするだなんて、ダサいことをしてしまった。
それに、今のこの表情、誰かに見られたら一生いじられるような気がする。
だから、いち早く、1人になりたい。
全速力で走りながら、明日アイツに会ったらどうしようか考えた。

8/1/2024, 10:02:00 AM