【203,お題:誰よりも】
誰よりも、僕は君のことを愛している
僕の一番は世界中の人間を集めたって、絶対に君一人だし
君が道を外さないよう、僕がずっと手を引いてあげる
危なくないよう、辛くないよう
君のことだけを思ってレールを作ってきたのに、なんで君はそんな顔するの?
僕から離れないで、世界は怖いとこだって僕が誰より知っている
僕が絶対守るから、一人でどこかに消えていかないで
でも、君は僕の腕を振り払った
「自分で生きたい」
行き場を失くした両腕ですがるように掴もうとしたけど
ひらり身を躱した君は優雅に僕の前から消えていくんだ
初めて気付いた、君の目が僕を見ていなかったことに
僕の思いだけが、先走って空回りして
君を守るため繋いだ手は、いつの間にか君を傷つける刃物になっていた
ああ、君はきっと僕を許さない
でもいいよ忘れてくれ
憎まれていたとしても、君が生きていてくれるなら
もう、それだけで十分だから
【202,お題:10年後の私から届いた手紙】
10年後の私から手紙が届いた
薄いピンクの封筒に、可愛い猫のシールが貼ってある
それを見た瞬間、私は涙が溢れた
そうか、"僕"は嘘を付かずに生きていけているんだな
自分の好きなものを、隠さず好きと言えているんだな
私が私であれたことを、そのピンクの封筒は証明していた。
【201,お題:バレンタイン】
チョコはいつも、友チョコ用と義理用と家族用に
大量生産がしやすいレシピで前日に沢山作り置きしています。
本命は一度だけ、あげたことがあるんですが
残念ながら、返事は帰ってこず...
曖昧なまま何年も経ってしまいました...(苦笑)
今日もまた、みんなに渡しに行ってきます。
【200,お題:待ってて】
「ここで待っていて、絶対に動いちゃいけないよ」
重く響く破壊音とそれに重なる悲鳴の声に負けないよう
大きな声で は言った。
「でも はどうするの!?一緒にここにいようよ」
「僕はアイツらを引き付けながら逃げる、僕らにしか入れない部屋があるんだ」
「大丈夫!きっとどうにかして見せる、だから大人しくしてて、ね?お願い」
嫌だ、と言う声は出なかった
口が勝手に「わかった、けど絶対戻ってきてね」と言葉を紡いだからだ
まるで決められたセリフを読むかのように
なんで...駄目だ行かないで!
「うん、わかってるよ」
にこりと笑った の顔を見上げる
バタンと重い音を立てて蓋が閉ざされた。
駄目だ!駄目だ駄目だ!早くここから出ないと、 を一人にしちゃ駄目だ!
そう思うのに体は全く動かない
自分の物ではないかのように、勝手に膝を抱えて目を閉じてしまった。
「大丈夫... は嘘付かないし...」
ああ、ここからの展開はなんとなく予想が付いてしまった
すでに結末を知っている映画をみているような感覚で、膝を抱えた幼い頃の自分を見ている
轟音、悲鳴、破砕音
ボコボコと周りの地面が隆起しひび割れ、日常が壊されていく音
息の詰まるような恐怖の中、必死に涙を堪えて身を縮める自分の姿
いくら待てども はもう戻って来ないと言うのに。
ハッと目を覚まし慌てて体勢を起こした、ぐるっと辺りを見渡してフーッと長い溜め息を付く
のように髪を結い上げ、 のように目の下に傷を作った
そのまま部屋のそとに出て、すれ違う人に明るく言葉を渡す
自分ではない「彼」として
【199,お題:伝えたい】
何度も君に言おうとしたんだ
でも君との距離は思ったより遠くて、正確な声で伝わらない
君のところに行けたらよかったのに
歩けば沈む、沼のようで
伝えたい、伝わらない
届けたい、届かない
両手に抱えた沢山の"ありがとう"と"ごめんなさい"を
君に伝えたいけど、臆病な僕はやっぱり
1歩も進めずいるんだな