【198,お題:この場所で】
あなたが愛したこの場所で
あなたが守り抜いたこの場所で
あなたが作り上げたこの場所で
私は生き続けます
いつかあなたが帰ってくる日まで、何千年先も待ち続けます
だから、どうか寄り道などせず
真っ直ぐ帰ってきて下さい
あなたを愛しています。どうかご無事で
【197,お題:誰もがみんな】
誰もがみんな、心に獣を飼っている
それに引き摺られないよう、歯を食いしばって耐えている
その苦しさを誰にも見せないよう
誰もがみんな、誤魔化しながら生きている
【196,お題:花束】
薔薇を100本、意味は「100%の愛」
おく場所にも困るし、プレゼントに使う人はそうそういないだろうと思っていた
「ぼ、僕と結婚してください!」
目の前に差し出されたのは大量の赤い花弁
顔も見えない程に巨大なその花束は、間違いなく自分に向けられているものだった
「えっ、...えぇ...?」
「あれっ、聞こえなかったかな?僕と...」
「それは聞こえてる!」
驚いた、というか彼の馬鹿さをなめていた
前に「薔薇の花言葉ってなに~?」って聞いてきたから、何か企んでいるのかと思っていたら
まさか、本当に薔薇を100本送る奴がいたとは...
「どうかな...?もう付き合って長いし...」
恥ずかしそうにもごもごといいながら、彼は返事を待っている
少々面食らったが、もとより彼のことが好きで付き合っていた訳だし、返す言葉は決まっていた
「もちろん、私でよければ喜んで」
瞬間ガッツポーズで飛び上がって喜んだ彼と、薔薇の花の置場について議論することになるのはまた別の話である。
【195,お題:スマイル】
犬を拾ったんだ。
薄汚れててボロボロで、今にも死んでしまいそうで放っておけなかったんだ
抱き上げようと手を出したら、そいつ俺のことを噛んだよ。全然痛くなかったけど血は出た
家に連れて帰って初めて気付いたのが、コイツは犬じゃなかったってこと
まあ拾ったのが魔法の森付近だったから、薄々気付いてたけど
コイツは狼だ、それに多分結構上位の魔獣だろう
身体を洗ってやっても灰色が落ちなかったのは、コイツの毛色が元々灰色だからだ
何があってあんな人里近くに居たのかは分からないが、ひとまず保護することにした
まだ詳しい種類は分からないけど、人に変化出来るタイプならいろいろと便利だろう
「う"う"ぅ"ぅ"ぅ"~~」
「やっぱ昨日の今日じゃ無理か」
これからは不幸な目に合わないでほしいのと、笑って生きてほしいことから「スマイル」と名付けたが
"彼"はなかなか偏屈で頑固な性格だった、彼、というのは
人に変化出来る魔獣だったことから、ペットとしてではなく1人の人間として扱おう、という意思からきている
もともと野生で生きる種族だからだろう
彼はなかなかに野性的で、家を空けて戻ると核爆弾でも落ちたのか、と思うほどに家が滅茶苦茶に荒らされている
「そうしろ、と言うわけではないが、もう少し規模を縮められないか?」
「.........」
この奇妙な生活はいつまで続くのだろう
彼が野生に戻ろうという意思があるのならすぐにでも戻してやりたいとこだが
生憎彼の傷はまだ治癒しきってない、かなり時間が経ってる筈だが異様に治りが遅いのだ
未来が決めることをうじうじ悩んでもしょうがないが、部屋を散らかすのは勘弁してほしい
割れて散乱した花瓶を片付けながら、俺はふと思うのであった。
【194,お題:どこにも書けないこと】
「死にたい」
そう乱雑に書き殴って机に突っ伏した、嗚咽は出るのに涙は乾いている
何でだろうこう思ってしまうのは、自分は幸せなはずなのに
友達もいるし家族仲も良くて、4つ下の弟も可愛くて仕方ないはずなのに
何でだ、分からない、どうして自分は死にたい?
スッと顔を上げる、こんなとこ誰にも見せられない
紙に書いた「死にたい」の字を消しゴムで消してゴミ箱へ投げる
ボーッと虚空を仰いで首に手をやった
きつく絞める、両手で喉を潰す勢いで首を絞めたら反射で咳き込んでしまい手を離した
『どこにも書けないこと』