無音

Open App

【200,お題:待ってて】

「ここで待っていて、絶対に動いちゃいけないよ」

重く響く破壊音とそれに重なる悲鳴の声に負けないよう
大きな声で    は言った。

「でも    はどうするの!?一緒にここにいようよ」

「僕はアイツらを引き付けながら逃げる、僕らにしか入れない部屋があるんだ」

「大丈夫!きっとどうにかして見せる、だから大人しくしてて、ね?お願い」

嫌だ、と言う声は出なかった
口が勝手に「わかった、けど絶対戻ってきてね」と言葉を紡いだからだ
まるで決められたセリフを読むかのように

なんで...駄目だ行かないで!

「うん、わかってるよ」

にこりと笑った    の顔を見上げる
バタンと重い音を立てて蓋が閉ざされた。

駄目だ!駄目だ駄目だ!早くここから出ないと、    を一人にしちゃ駄目だ!

そう思うのに体は全く動かない
自分の物ではないかのように、勝手に膝を抱えて目を閉じてしまった。

「大丈夫...    は嘘付かないし...」

ああ、ここからの展開はなんとなく予想が付いてしまった
すでに結末を知っている映画をみているような感覚で、膝を抱えた幼い頃の自分を見ている

轟音、悲鳴、破砕音
ボコボコと周りの地面が隆起しひび割れ、日常が壊されていく音
息の詰まるような恐怖の中、必死に涙を堪えて身を縮める自分の姿

いくら待てども    はもう戻って来ないと言うのに。


ハッと目を覚まし慌てて体勢を起こした、ぐるっと辺りを見渡してフーッと長い溜め息を付く
    のように髪を結い上げ、    のように目の下に傷を作った

そのまま部屋のそとに出て、すれ違う人に明るく言葉を渡す

自分ではない「彼」として

2/13/2024, 10:26:49 AM