【174,お題:閉ざされた日記】
机の上にのった一冊の本、なんとなく視界に入れたそれは
茶色い表紙にベージュで四角い模様がいくつか描かれており
そこに特に意味もないであろう、お洒落な外国語の羅列が書いてある
仕事はもう終わっている、早く帰らなければならない理由はないが特段長居する理由もない
だがオレはその本を手に取った、普段ならばすぐにこの場を去っただろうがほんの気まぐれだった
表紙を開く、数ページ捲ってみるとどうやらそれは日記らしかった
そして、オレはすぐにそれを開いたことを後悔した。
綴られていたのは、ただの平凡な家族の日記
日によって言葉遣いや字の形が違うため、家族で交換日記のように書いていたのだろう
手の中の日記帳がズンと重みを増した気がした
急に呼吸が出来なくなった気がした
繰り返し文章を眺め、反芻し小さく口に出した
やがて日記帳を閉ざしそれを持ったままふらつく足取りで外に出た
理解を拒む脳が身体中に誤信号を伝達して
視界は眩み、内蔵を引っ掻きまわされるような気持ち悪さと
割れるように痛む頭が、真っ直ぐ歩くことさえ不可能にしていた
日記帳は固く閉ざして裏路地のごみ捨て場に放り投げて帰った
薄いシーツを頭からかぶって部屋の隅で身体を縮める
さっさと忘れよう、ようやく自由に慣れたんだから
【173,お題:木枯らし】
木枯らしが吹く、くるくると舞い踊る木の葉が耳元を駆けていった
コートが風になびく、マフラーで口元を覆って
軽くスキップしながら地面を蹴り歩く
意味もなく途中で回ってみたり、鼻歌を歌いながら
木枯らしの演奏の中、一人家路を歩いた。
【172,お題:美しい】
美しいものというのは、いつだって心踊る
現実から切り離されたような圧倒的な美しさに
人は自然と引き寄せられるものなんだと思う
冬の野山の雪化粧、春の桜並木、夏の木々の木漏れ日、秋の澄んだ秋風
もともと自然に生きる者だったからだろうか
自然は居て心地が良い
どんなに綺麗なアートも、ビル街も自然の美しさには敵わない
この自然といつまでも共生できたら良いと思う。
【171,お題:この世界は】
この世界はつまらないことだらけだ、黒い目の少年が云った。
つまらなくても、つまらないなりに何かあるんじゃないかと
そう思って来たけど、それももう止めようかと思っている
人間は賢いからね、自分が経験したことを覚えている
そしてそのデータを元に見えないものを予測・分析する力がある
それ故に、ぱっとしない結果が続くと
もうこの先ずっとこうなんじゃないか、と今あるデータを眺めて
前を見るのを止めてしまう、期待をするのを止めてしまう
でもどうにか立ち上がって前を見据えて、震える足で1歩づつ進んできたのが人間なんだろう
それが普通なんだろう、その"普通"を証明できるわけがないのに
僕はもうやめる、飽きたゲームを捨てるのと何ら変わらない
捨てる場所が少し違うだけだ、ゲームはごみ捨て場へ僕は×××へ
案外取り乱さないものなんだな、凪いだ水面のように冷えた内蔵
この世界はつまらないから、どんな出来事も"その程度のもの"として掻き乱されるから
世の中のニュースとか記事とか、全部赤裸々に包み隠さず公開すればもっと世の中は面白かったかもしれないのに
きっと僕のこともすぐ忘れられるさ、この世界は皆が皆無関心を貫いてるんだから
...............
風が冷たかった。
【170,お題:どうして】
どうして僕は今ここに居るの?
どうしてあの時やめる勇気を出せなかったの?
どうして何も感じないの?
どうして?どうして?どうして?
そんなの
全ての選択を誤ったあの時からずっと
知ってるはずだ、僕はもう手遅れだって
病んでるとか、痛いとかじゃない。多分
病んでるならもっと辛くて苦しい、何故か凄く泣きたくて誰かに話を聞いてほしくなる
だけど正常でも無いんだろうな、無気力無関心
わざとテンションを上げたり軽く喋ったりしてるけど
「何も偽らずに過ごして」って言われたら、きっと僕にそれは出来ない
全部嘘みたいなものだから、身ぐるみを全部剥がそうとしたら
最後には何も残らないんじゃないかな
自分でも自分がなんだか分かんない
辛くも楽しくもなくて、漠然とした不安感のせいでちょっと生きる行為事態が怖い
哲学とか精神的な目に見えない核心を探そうとして躓くタイプだから
どうして?なんで?が止まらなくて、考えちゃいけない深いとこまで潜って勝手にダメージを受けてる
パッと終わらせてしまえばいいのに勇気がない
終わらせるのが一番の解決策だって頭では分かってるけど、理解するのと行動するのとではまた違うから
結局大量のどうして?を繰り返し唱えながら、なんとなく終わるまで生きています。