【102,お題:あなたとわたし】
あなたとわたし ふたりでひとつ
あなたはわたしで わたしはあなた
どんなときでも一緒にいる 仲の良い姉妹
ある時初めてケンカをしたの
何日も口を利かなかった
その時から わたしたちは別々になった
ご飯も お風呂も お昼寝も
ずっと別々で過ごして ある日気付いたの
一緒じゃなくても良いんだと
いつも言われてた 「二人ともずっと一緒で仲良しだね」と「いつもくっついてて可愛いね」
ふたりでひとつが当たり前になってて なんだかいつも不自由な気持ちがあった
1人でいてはいけない気がしたの
ケンカしてようやく気が付いた
わたしたちは1人の人間として生きて良いんだと
でもやっぱり
わたしの隣はあなたが良い
【101,お題:柔らかな雨】
しっとりと頬を濡らす柔らかな雨
叩き付けるようなザァザァ降りじゃない
全てを包み込む 慈悲の雨
硬い石の床に ゴミのように棄てられた身体から
優しく体温を抜き取っていく
徐々に視界が狭まる
温かな布団で眠りにつく直前のように
彼女は静かに瞼を閉じた
柔らかな雨は 残酷なまでに美しく 溢れんほどの慈愛の雫
【100,お題:一筋の光】
死のうとした、生きることが怖かったんだ。
夕暮れ時、地獄のような帰り道をのろのろ歩く
地平線から覗くオレンジ色の一筋の光が、僕を誘っているようだった
もういいか、もういいよね ここまで耐えたんだ、もう...楽になっても誰も咎めないだろ
通学路の途中の、下に電車が通っている鉄橋
鞄を投げ捨てて欄干の上によじ登る、両腕を広げて立ち上がると冷たい風がいたずらに身体を押した
住宅街の隙間から手を差し伸べる1本の腕のように、沈み行く太陽の光の筋が見えた
その手を取るように、右手を前に出してゆっくりと重力に身体を預ける
さよなら、ばいばい、もう二度と人間なんかに生まれませんように...
「ッッ!!!!!」
ガッ! ...ズシャッ
線路に叩きつけられて、見るも無残な肉塊に成り果てるはずだった僕の身体は
気が付くと欄干から滑り落ち、コンクリートの地面に横たわっていた
「...え?...なん...で...」
「馬鹿ッ!なにやってんのお前!危ないことすんな!落ちたらどーすんだよ!」
何が起きたか分からない、混乱する頭を押さえて身体を起こすと再び怒鳴られた
「お前、死ぬ気だったのか?そんなに悩んでたならなんで言わなかった!?」
...分かってるよそれくらい、じっと目を反らす
「俺に言ってくれれば、俺も一緒に悩めたのに!」
そんなの実際そうならなきゃ分かんないでしょ
「俺はッ!」
「だからっ!そんな適当な奴らばっかだから!自分の身の保身にしか走れないくせに!」
幼い頃父の暴力が原因で両親は離婚した、母は不登校になった妹にばっか世話を焼いて僕の話を聞く暇は無いらしい
妹の不登校の原因は「クラスに馴染めなかった」ただそれだけ、おかしいだろ?僕はいじめまで受けてるのに一度も休んだことはない!
「友達も!家族も!皆!...馬鹿みたいだ、僕こんな奴らのために死ぬんだよ?」
「...俺は...!」
「知らないよ、聞いてない!どっか行ってよ邪魔しないで!」
横を通りすぎ欄干の縁に手を掛ける、もうさっさと飛んでしまおう
しかし、袖を引く手がそれを許さない
「なんだよ!もうこれ以上苦しみたくないんだよっ!」
「俺が!どうにかするからっ!」
ぎゅっと固く握られた拳が震えている
「全部、俺がどうにかする!いじめのことも俺がどうにかして見せる!だから...!」
「...出来るわけ無いじゃん、そんなんで変わるなら今こんなことしてないよ」
「いや出来る、して見せる!」
「保証は?」
「保...証は...ない...けど」
ほらそうじゃないか、結局全部出任せだ
「...けど、絶対にもう苦しませない!駄目だったらすぐ死んで良い、だから!一回だけ...一度だけチャンスをくれ...」
君の表情は見たこともない程真剣だった
「...わかった、一度だけ...ね?」
「...ッ!...あぁ、絶対に死なせない」
こちらに向けて差し出される手を、恐る恐る握る
ありがとう、と困ったように笑うその顔がほんの一瞬、一筋の希望の光に見えて
その光に騙されても良いか、そう思ったんだ
【99,お題:哀愁をそそる】
すうっと息を吸い込んで、その倍の時間をかけゆっくり吐き出す
やっぱり秋の空気は澄んでて気持ちいい
今は廃墟となった、麓を見下ろせる展望台 その建物の窓から身を乗り出して頬で風を切る
どこからか運ばれてくる金木犀の匂いが哀愁をそそるようだ
「...やっぱ、この秋はニガテかもなぁ...」
誰に聞かせるでもなく、ぼやっと呟いてみる
言葉はすぐに風に吹かれて、搔き消えてしまった
「この時期は妙に不思議な感覚になる」
自分が自分でなくなって、風に吹かれてどこまでも進んでいけるような気がする
誰にも頼らず寄りかからず、たった1人でどこまでも
要するに、孤独でいたくなるのだ
「...もう、すぐに冬かあ」
どうにもこの時期は家を空ける時間が増える気がする
「散歩」と言い訳して家を脱け出し、人間社会から逃げるようにこの廃墟の展望台へやって来る
この場所でぼーっと時間を潰すのが、何となく自分は好きなんだろう
今日は読みかけの本と、クッキーを焼いて持ってきた
色褪せたグレーの壁に背中を預け、本を開く
夏と冬の間の隙間、すぐに移り変わってしまう刹那の季節
そんな時間が心地よく、そして哀愁をそそる
【98,お題:鏡の中の自分】
鏡の中の自分は、優しくて 誰からも好かれる少年
鏡の中の自分は、怒りんぼで 皆から怖がられる青年
鏡の中の自分は、愛想良くて 皆から可愛がられる少女
鏡の中の自分は、頭が良くて なんでも要領よくこなす優等生
鏡の中の自分は、運動が出来て 皆の憧れるスポーツマン
鏡に映る自分は、ボサボサの髪に 死んだ瞳の無気力な青年
鏡に映る自分は、生きることを嫌い死ぬことを恐れた 社会の老廃物のような生き物
鏡に映る自分は、前にも後にも進めず戻れない ただ酸素を消費し続ける 生産性の欠片もない肉塊
理想を映す鏡は、それと同時に現実をも映す
変わりたい理想と、変われない現実に板挟みにされ圧死していくのが 腐りきった自分の行き着く先か