無音

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【99,お題:哀愁をそそる】

すうっと息を吸い込んで、その倍の時間をかけゆっくり吐き出す

やっぱり秋の空気は澄んでて気持ちいい
今は廃墟となった、麓を見下ろせる展望台 その建物の窓から身を乗り出して頬で風を切る

どこからか運ばれてくる金木犀の匂いが哀愁をそそるようだ

「...やっぱ、この秋はニガテかもなぁ...」

誰に聞かせるでもなく、ぼやっと呟いてみる
言葉はすぐに風に吹かれて、搔き消えてしまった

「この時期は妙に不思議な感覚になる」

自分が自分でなくなって、風に吹かれてどこまでも進んでいけるような気がする
誰にも頼らず寄りかからず、たった1人でどこまでも

要するに、孤独でいたくなるのだ

「...もう、すぐに冬かあ」

どうにもこの時期は家を空ける時間が増える気がする
「散歩」と言い訳して家を脱け出し、人間社会から逃げるようにこの廃墟の展望台へやって来る

この場所でぼーっと時間を潰すのが、何となく自分は好きなんだろう

今日は読みかけの本と、クッキーを焼いて持ってきた
色褪せたグレーの壁に背中を預け、本を開く

夏と冬の間の隙間、すぐに移り変わってしまう刹那の季節
そんな時間が心地よく、そして哀愁をそそる

11/4/2023, 2:43:37 PM