【100,お題:一筋の光】
死のうとした、生きることが怖かったんだ。
夕暮れ時、地獄のような帰り道をのろのろ歩く
地平線から覗くオレンジ色の一筋の光が、僕を誘っているようだった
もういいか、もういいよね ここまで耐えたんだ、もう...楽になっても誰も咎めないだろ
通学路の途中の、下に電車が通っている鉄橋
鞄を投げ捨てて欄干の上によじ登る、両腕を広げて立ち上がると冷たい風がいたずらに身体を押した
住宅街の隙間から手を差し伸べる1本の腕のように、沈み行く太陽の光の筋が見えた
その手を取るように、右手を前に出してゆっくりと重力に身体を預ける
さよなら、ばいばい、もう二度と人間なんかに生まれませんように...
「ッッ!!!!!」
ガッ! ...ズシャッ
線路に叩きつけられて、見るも無残な肉塊に成り果てるはずだった僕の身体は
気が付くと欄干から滑り落ち、コンクリートの地面に横たわっていた
「...え?...なん...で...」
「馬鹿ッ!なにやってんのお前!危ないことすんな!落ちたらどーすんだよ!」
何が起きたか分からない、混乱する頭を押さえて身体を起こすと再び怒鳴られた
「お前、死ぬ気だったのか?そんなに悩んでたならなんで言わなかった!?」
...分かってるよそれくらい、じっと目を反らす
「俺に言ってくれれば、俺も一緒に悩めたのに!」
そんなの実際そうならなきゃ分かんないでしょ
「俺はッ!」
「だからっ!そんな適当な奴らばっかだから!自分の身の保身にしか走れないくせに!」
幼い頃父の暴力が原因で両親は離婚した、母は不登校になった妹にばっか世話を焼いて僕の話を聞く暇は無いらしい
妹の不登校の原因は「クラスに馴染めなかった」ただそれだけ、おかしいだろ?僕はいじめまで受けてるのに一度も休んだことはない!
「友達も!家族も!皆!...馬鹿みたいだ、僕こんな奴らのために死ぬんだよ?」
「...俺は...!」
「知らないよ、聞いてない!どっか行ってよ邪魔しないで!」
横を通りすぎ欄干の縁に手を掛ける、もうさっさと飛んでしまおう
しかし、袖を引く手がそれを許さない
「なんだよ!もうこれ以上苦しみたくないんだよっ!」
「俺が!どうにかするからっ!」
ぎゅっと固く握られた拳が震えている
「全部、俺がどうにかする!いじめのことも俺がどうにかして見せる!だから...!」
「...出来るわけ無いじゃん、そんなんで変わるなら今こんなことしてないよ」
「いや出来る、して見せる!」
「保証は?」
「保...証は...ない...けど」
ほらそうじゃないか、結局全部出任せだ
「...けど、絶対にもう苦しませない!駄目だったらすぐ死んで良い、だから!一回だけ...一度だけチャンスをくれ...」
君の表情は見たこともない程真剣だった
「...わかった、一度だけ...ね?」
「...ッ!...あぁ、絶対に死なせない」
こちらに向けて差し出される手を、恐る恐る握る
ありがとう、と困ったように笑うその顔がほんの一瞬、一筋の希望の光に見えて
その光に騙されても良いか、そう思ったんだ
11/5/2023, 10:17:32 AM