【38,お題:きらめき】
それは人類が地上から消え去った後
肉体を持つ人間ではなく、プログラムされた意思をもったAIが世界を廻している時代
「おい、A-0373聞いたか?」
「聞いたって、何を?」
「サイバーシティのB-9600のことだよ
アイツ“きらめき様”に逆らって、リセットされたって」
「えぇ、無謀なことをする奴がいるもんだねぇ...」
機械化が進みに進んだこの星は、恐ろしいほどに娯楽が少ない
綺麗な風景なんて、常に薄暗い街では見れたもんじゃないし
食べることも眠ることも必要ないこの体では、何かをしたいと言う欲求はほとんどない
それ故にここの住人達は一日中椅子に座っていたり、各自ボーッと時間を潰しているのだが
最近こういったニュースが流れてくることが増えてきた。
「何でも、人間が居た時代に世界を戻すんだとよ。馬鹿なこと考えるよなぁ若いもんは」
「RBLON-リベリオン- だっけ?反逆の意思を持ったヒューマノイド達の集まり」
「あぁ...確かそうだったなぁ、やめときゃいいのに。全員捕まってジェイル行きだぜ」
何故そこまでのリスクを冒そうとするのか、自分には到底理解できない
自分達は人間じゃないので、恐怖を感じることはないが
初期化-リセット- は誰だって嫌だろう。
「......A-0620、君は今の世界に満足している?」
「たりめーだろ、変なこと言ったら俺も消されちまう」
全てが機械化され、生身の体を持つ生き物なんて居なくなった世界
どこに言ってもガスの匂いが充満しているディストピア
昼でも暗い夜の街、光を知らず 光から目を背けながら
僕らは今日も作動している。
【37,お題:些細なことでも】
些細なことでも、全力で楽しめる君が羨ましい
悲しければ泣いて、楽しければ笑って
当たり前のように、感情を表現できる君が羨ましい
君はまだ知らないんだ
この社会がどれだけ汚れているのかを
意見の一つもまともに言えない、息苦しい世界を
でも
君にはまだ知らないでいてほしいな
まだ純粋なままで、嘘の笑顔なんて覚えないでほしい
些細なことで鈴を転がすように笑い
些細なことで泣いたり怒ったりする
そんな自由な君のままでいてほしい。
【36,お題:心の灯火】
今日、会社で上司にキレられた。
理由なんて知らない、ミスした記憶もないし。もしかしたら八つ当たりなのかもしれない
帰りの電車、罰だと言って体よく押し付けられてしまった仕事を片付けていたら、あっという間に終電だった
(あぁ...惨めだなぁ...俺)
仕事が億劫に感じるようになったのはいつだ?
上司や先輩に意見を言えなくなったのはいつだ?
自分を守るのに精一杯で、綺麗事を吐くようになったのはいつだ?
吹き付ける風に、電車の窓がカタカタと揺れていた
今すぐこの窓を開けて外に飛び出したら、楽になれたりするのだろうか
(何のために仕事してんだろ...)
「はい、これあげるね」
下を向いて惨めな気持ちに浸ってると、不意に横から手が差し出された
その手には、袋に小分けになったチョコレート
「え...俺に?」
差し出された手の方を見やると、小学校低学年くらいの男の子が
早く受け取れと言わんばかりに左手を出したままの格好で、俺の方を見ていた。
「あ、ありがとう...」
戸惑いながらも受け取ると、男の子はにっと笑い左手を引っ込め
右手に抱えたお菓子の箱から、新たなチョコを取り出して、むぐむぐと食べていた
「ねぇ親御さんは居ないの?」
「おれ、家にいるとおこられちゃうから」
視線を外さずに答える男の子、なにやら訳アリなんだろう
しばらくお互い黙っていたが、終点の1個手前の駅の名が呼ばれたとき
男の子がバッと顔を上げた。
「あ、おれここだ!これ持ってけないからあげるね」
押し付けられたチョコの箱、中身はもうほんの少しになっている
なにも言えずポカンとしていると、降りる前に男の子が振り返った
「じゃあね、おじさん!」
「がんばれ!」
プシュゥゥゥゥゥ!
ドアが閉まって電車が動き出した
頬の上を何かが伝って落ちていく
自分が泣いていると自覚するのに数十秒かかった。
もしかしたら自分は、誰かに認めてほしかったのかもしれない
君は頑張っているよ、と
もらったチョコレートを口に放り込んだ、優しい甘さが口いっぱいに広がる
よし、明日も頑張ろうと心の中で唱えた。
消えかかった灯りが、再び灯ったような気がした。
【35,お題:開けないLINE】
「桃子?...寝てるの?」
真っ暗に締め切った部屋の中
もう何度目だ、外からの母の声を聞いたのは
「桃子、りんご切ったのよ。食べる?」
うるさいな ほっといてよ
「......お母さんお仕事に行ってくるね」
トン...トン...トン......
音が遠ざかって、車のエンジン音が聞こえなくなるまで待ってから
私はおもむろに布団から這い出した。
気持ち悪い 頭痛い
そういえば昨日からなにも食べてないなぁ...
......ピロン
「...っ!」
唐突に鳴った通知音に飛び上がり、恐る恐るスマホを手に取った
「!...ぅ...あぁ...」
明るくなったロック画面に現れたのは、私への罵詈雑言の嵐
多分授業中に先生の目を盗んでやってるのだろう
止まることない悪意の包囲網
慣れてるはずなのに、なぜか涙が溢れた
開く勇気はない、既読を付けてしまったらさらに悪化しそうで開けなかった
「...ッ!こんなものッ!」
ガンッ!
スマホを壁に投げつけて、布団に潜り耳をふさいで息を止めた
消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい消えちゃいたい
その間にも、ピロンピロンピロンと通知の音はなり続けた。まるで、返事をしない私を責めるように
なにか言い返せればよかったのだろうか
誰かに助けを求めればよかったのだろうか
そんなことを考えながらも
開けないLINE
【34,お題:不完全な僕】
不完全な僕ら
互いに埋められない空白を抱えて生きている
その空白は 冷たく 暗く とても寂しい
埋まらない隙間を埋めようと
人は人を求める
その体温が 手の温もりが
「君はここに居ていいんだよ」 そう言ってくれる気がして
人は手を取り合って生きることを選んだ
まだ不完全な僕ら
完全になれる日なんて来ないのかもしれない
それでも
この地球に僕ら
支え合って立っている