まよなか

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2/9/2024, 1:24:56 PM

私は毎年、結婚記念日に妻に花束を贈る。
まだお互い若かった頃。それこそ付き合い始めた当初に「橙色が好きなの」と言った妻の為に、いつも橙色のブーケを用意している。

「旦那さん。奥さんへ贈るなら赤やピンクは如何ですか?花言葉もそちらの方が素敵ですよ」

そう提案する店員に悪気はないのだろう。
花言葉は確かにロマンチックだし、赤やピンクには情熱的な花言葉が付けられている。
気持ちを込めて贈るなら、それもまた1つの選択肢なのかもしれない。

だが私は、それらに縛られる必要はないと思っている。

『あなたが私の為に選んでくれたものなら、何だって嬉しいのよ』

ある時妻が言った一言。
私が選んだ花をブーケにして贈る事に意味があり、きっと妻はそれを喜んでくれているのだから。


『花束』2024/02/09

2/8/2024, 10:52:34 AM

「あなたの笑顔が好き」

そう伝えるとあの人は照れたのか頭をかいて、でも嬉しそうに顔をくしゃっとして笑ってくれる。

「ありがとう」

その一言で、私も笑顔になれる。
明日もまた、会えますように。


『スマイル』2024/02/08

2/7/2024, 12:05:20 PM

私には夫とは別に、好きな人がいる。


私よりも25歳年上のあの人は、強くて、優しくて、たまに厳しい事もある。
怒った顔も、困った顔も、物思いにふける顔も好きだけど、笑顔がとっても素敵で大好き。

でも本当は誰よりも繊細で、脆くて。
他人に優しいのは、自分が傷つきたくないからで。

昔のトラウマから、他人を信頼したいのにできない。

その事を知った時、支えなければと思った。


ある時、私の事を信じていると言ってくれた。
私はずっとこの人のそばに居たいと思った。
あなたを信じる私を、これからも信じて欲しいと思った。

でもきっとこれ以上の気持ちは、夫への裏切りになる。


私は、どうしたらいいんだろう。


『どこにも書けないこと』2024/02/07

2/7/2024, 4:42:38 AM

公園にある時計塔の下。
いつ頃からだっただろうか。一人の中年の男性が、毎日そこに立っている。晴れの日も、雨の日も、雪の日も。無理に帰ってきた台風の日も。男性は決まってそこに立っていた。
好奇心に駆られた私は、ある日ついに男性に声をかけた。「毎日居られますが、どうしたんですか」と。
すると男性は驚いた様にほんの少しだけ目を丸くして、しかしすぐに朗らかな、育ちの良さそうな笑みを浮かべた。

「妻を、待っているのです」
「もう何十年も前に、ここで喧嘩別れをしてしまって」
「ずっと後悔していて。謝りたくて」
「毎日ゆうやけこやけが流れるまではと、待っているんです」
「……でも…、今日も来ないみたいです」

男性がそこまで言ったところで頭上から、コチ。と音が聞こえて、近くのスピーカーから大音量でゆうやけこやけが流れ始めた。それに驚いて思わず目をぎゅっと瞑る。流れ続けるガビガビに割れた音に顔を歪めながら目を開くと、男性は居なくなっていた。

男性の時は、止まったままらしい。


『時計の針』2024/02/07