TK

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11/14/2023, 10:12:37 PM

夏は駆け足で逃げていき、芯まで凍えてしまいそうな風が肌を刺す。寒い、と呟いてジャケットのポケットに手を突っ込んで背を丸める。教科書がたくさん入った鞄が重い。こんな時、あの子が隣にいてくれたらなぁと、想いを寄せている同級生を脳裏に浮かべる。
クラスは一緒で、席も近い。休み時間に世間話はできるけど、授業中に分からないところを聞くこともできるけど。それ以上、踏み込めない。一緒に帰ろうとか、休日おでかけしようとか、誘うことができない。
はぁ、とため息を付く。
夏祭りにはなんとか誘えたのになぁ。
夏休みが明けてからも特に関係性は変わっていない。
気軽に一緒に帰れる間柄にすらなれていない。寧ろ、距離が開いた気がするのは気の所為だろうか。
夏祭りの日、浴衣を着て隣を歩くあの子を思い返す。夏が遠ざかっていくほどに、あの時振り絞った勇気も、隣で見せてくれた笑顔も、夢か幻だったのではないのかと思えてくる。
冷たい秋風が吹きつけて、ふわりと、記憶に残る笑顔が揺らぐ。

「秋風」2023/11/15

11/14/2023, 2:16:18 AM

久々に本屋に立ち寄った。
視界の端にセルフレジが映り、どこも機械化しているのだと驚かされる。
料理、教育、とジャンルごとに分けられた背の高い棚に納まる本を眺めながら、懐かしさに静かに呼吸が早くなるのを感じる。昔から読書が好きで、学生の頃は無意味に本屋に入り浸ったものだ。
社会人になってからは毎日なんだか疲れていて、休日も寝てばかりで、本なんてずっと読んでいないが。
お目当ての作家の小説が並ぶコーナーを眺め、数冊を手に取り、レジに向かう。
が、すぐ足を止め、棚に置かれた本を無意味に手に取り、立ち読み客を装ってしまう。
自然と息が詰まる。悪いことをしていないのに、なんだが悪いことをしているようで、居心地が悪い。
髪の長い女性がレジで会計をしていた。なんてことない光景だが、その後ろ姿はまだ忘れられない気持ちを揺さぶるには十分すぎた。
その女性がレジを終え、出口に向かう。ちらりと見えた横顔は、記憶にあるものとは別人で、一気に肩から力が抜ける。

なんだ、人違いか。

安堵する気持ちと、少し似た後ろ姿に反応してしまうくらい未練たらたらなのを思い知り、泣きたくなる。

1年も経ったのに、引きずっている。
別れた理由は就職で彼女が他県に行くから遠距離になるからで、嫌い合ったわけではない。
だから、別れるとき「また会いましょう」と彼女は言った。言ったくせに、一度も連絡を寄越してこなくて、俺からも連絡する勇気はなくて。
社交辞令だと気付くの時間はかからなかった。
そんな言葉に俺は果たして「会いたい」と伝えても良いものか、ずっと悩まされている。
結局、本は買わなかった。読む気をなくした。
というか、彼女の存在を失ってから、ずっとそうだ。
ずっと俺は彼女の「また会いましょう」という言葉を思い出し、縋り付いてしまうのだ。

『また会いましょう』2023/11/14