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夏は駆け足で逃げていき、芯まで凍えてしまいそうな風が肌を刺す。寒い、と呟いてジャケットのポケットに手を突っ込んで背を丸める。教科書がたくさん入った鞄が重い。こんな時、あの子が隣にいてくれたらなぁと、想いを寄せている同級生を脳裏に浮かべる。
クラスは一緒で、席も近い。休み時間に世間話はできるけど、授業中に分からないところを聞くこともできるけど。それ以上、踏み込めない。一緒に帰ろうとか、休日おでかけしようとか、誘うことができない。
はぁ、とため息を付く。
夏祭りにはなんとか誘えたのになぁ。
夏休みが明けてからも特に関係性は変わっていない。
気軽に一緒に帰れる間柄にすらなれていない。寧ろ、距離が開いた気がするのは気の所為だろうか。
夏祭りの日、浴衣を着て隣を歩くあの子を思い返す。夏が遠ざかっていくほどに、あの時振り絞った勇気も、隣で見せてくれた笑顔も、夢か幻だったのではないのかと思えてくる。
冷たい秋風が吹きつけて、ふわりと、記憶に残る笑顔が揺らぐ。

「秋風」2023/11/15

11/14/2023, 10:12:37 PM