あれは合図を告げる鐘の音。
窮屈なドレスも靴も脱ぎ捨てて、素足のままで駆け出そう。
ばいばい、昨日までの理想のわたし。
引き止めるように呼ぶ声が聞こえても、もう振り返らない。
どこへ行こう。
きっとどこまでだっていけるはず。
だって私の背中には、白く輝く翼がある。
#素足のままで
もう一歩だけ近づきたい。
…以外のことを書きたいのに、そこから抜け出せない。
もう一歩だけのイメージの呪縛。
#もう一歩だけ
誰も私を知らない見知らぬ街で、リスタートしたくなることがあるのです。
そんな思い切りはないのだけれど。
リセット症候群なんて言葉があるくらい、案外皆、同じらしい。
#見知らぬ街
光った?
光ったね。
遅れて、雷の音がする。
怖い?
怖くないよ。
ほんとにぃ?
意地悪く笑う君に本当だよと答えかけた途端、また空が光った。
本当は怖い。とても怖い。
子供の頃から雷は大嫌い。
雨が来る前に帰ろっか。
ニヤニヤしている横顔が癪だけど、背に腹は代えられない。
うん、帰ろ。
頷く私の耳元に、君が囁いた。
おれはめっちゃ怖いから、今晩一緒にいてくれる?
#遠雷
深呼吸をひとつして、そっと目をひらく。
目の前には、底が見えないくらいに長く続く白い螺旋階段。
あなたが呼んでいるような気がして、そっと一歩を踏み出した。
降りるほどに深く深くなっていく真夜中みたいな青い青い世界。
私を歓迎しているみたいに、踏み出すつま先から小さな光がうまれていく。
ああまるで、海の底に星が降っているみたい。
綺麗。
呟くと、そうでしょう?と応える声。
そっと伸ばされた手が、私の指を絡めとる。優しい温度が伝ってくる。
待ってたんだ。
隣に立ったあなたが空を見上げて愛おしそうに目を細めた。
僕の海には、いつだって君の光が降っているんだ。
僕の見ているこの景色を、君にも見せてあげたかったんだ。
いつも本当に、ありがとう大好き。
………夢?
ぼんやりとしたまま薄暗い中視線を巡らせれば、時計は真夜中を指していた。
隣に眠るあなたは、幸せそうな顔をしている。
いくらでも照らしてあげる。
だからずっと、笑っていてね。
#Midnight Blue