【空白】
なにもない空白は
すべてを失った証ではなく
新しい息吹を待つ余白。
過去の痛みを抱えた手を
そっとひらけば
風が通り抜けてゆく。
赦しは忘却ではなく
自分をほどく鍵。
循環の輪がまた廻り
心の空白に
やさしい芽吹きが宿る。
その空白こそが
未来を描くための
いちばん純粋なキャンパスなのだ。
【台風が過ぎ去って】
荒れ狂う風のあとに
静けさが戻ってくる
折れた枝を拾い集め
また手を動かす日々へ
途切れていた流れは
やがて自然に繋がり直し
澄んだ空気が胸いっぱいに広がる
残されたものは
与え合い支え合う心だけ
嵐は壊したのではなく
本当に大切なものを
浮かび上がらせてくれた
【ひとりきりのとき】
信じていたつながりも、時の流れの中で形を変えていく。
気づけば、隣にいたはずの温もりは遠くなり
ただ自分の足音だけが響く道を歩いてる。
変化は容赦なく訪れる。
望んでいたはずの前進も、思いがけない衝突も
ひとりきりの静けさの中で、胸に重く残っていく。
けれど、その孤独は空白ではない。
そこには確かに、自分自身の声がある。
誰の影響も受けずに、ただ「私」として立っている感覚。
ひとりきりのときほど、人は揺さぶられ
そして強くなる。
孤独の痛みさえも、やがては未来へと続く
新しい調べの一部になるのだろう。
【フィルター】
朝、鏡の前に立ったとき、私はいつものように心の
中で小さな声を聞いた。
「本当はどうしたいの?」
けれど私は、その声にフィルターをかけてしまう。
「こうすべき」「こう見られたい」ーーそんな条件を通
して見る自分は、いつも少しぼやけている。
ある日、友人に何気なく言われた言葉が胸に刺さっ
た。
「君って、もっと素直でいいんじじゃない?」
その瞬間、フィルター越しに見えていた景色が少し
揺らいだ。
私は気づく。
恐れていたのは他人の評価ではなく、自分の本音と
向き合うことだったのだ。
だから今日は、小さな決断をしてみる。
フィルターを一枚外して、心の声に従ってみる。
すると、不思議なくらい景色が鮮やかに見えた。
それは大げさな変化ではなかったけれど、確かに世
界は少しだけ澄んでいた。
【雨と君】
窓を打つ雨の音が、やけに胸に響いていた。
ずっと抱えてきた不安や迷いが、冷たい雫みたいに心の中で溜まっていたからかもしれない。
外に出れば、視界は灰色に閉ざされて、まるで自分の足元さえ見えなくなるようだった。動きたいのに、動けない。そんなもどかしさが、雨の重さと一生にのしかかってきた。
でも、ふと顔を上げると、傘も差さずに立っている君がいた。びしょ濡れのはずなのに、不思議とその表情は晴れやかで「大丈夫だよ」と無言で伝えてくるみたいだった。
その瞬間、胸を締めつけていた見えない鎖が少しだけほどけた気がした。
雨はまだ降り続いている。けれど君がそこにいる限り、この雨はきっと、私を縛るものじゃなく、新しい一歩へと洗い流してくれるものになるんだろう。