夏の匂い
夕暮れ、風が頬をなでた瞬間
あの人の声が心にふっとよみがえった。
空はまだ少し迷っていて
雲の奥で光がじっと息をひそめている。
それでも私は、信じていた。
約束は、風に消えたりしないって。
胸の奥がざわめいていたのは
陽射しでも、記憶でもない。
きっと、運命の気配だった。
夏の匂いがした。
懐かしくて、少し切なくて
だけど、優しく包まれるような匂い。
私は今日も、静かに待っている。
心の中に、あの日交わした沈黙の言葉を携えて。
カーテン
揺れている、薄くてやわらかな境界線。
光と影を分けるその布は
私の心そのものだったかもしれない。
見せたい自分と、隠してきた願い。
静かに風が吹くたびに
その境界線がふわりと揺らぐ。
もうすぐーー
そっと手を伸ばせば
その向こうに新しい空がある気がする。
誰にも見せなかった夢を
そっと、ひとひらの勇気で照らしてみよう。
このカーテンは、隠すためじゃない。
超えていくために、ここにある。
青く深く
指先に絡む約束の輪。
未来へと続く道は
鋭い鎌が刈り取るほどに透明な痛みを秘めて。
遠く、十字の影が揺れる。
青い夜の底で
私は静かに自分と向き合う。
深く、深く、
答えのない問いを抱きしめて。
夏の気配
風が優しく笑った。
小さな声ではしゃぐ影、裸足で駆ける午後の光。
まだ何も知らない心が、何かを始めたがっている。
偶然のような奇跡が
ふいに差し出された手の温もりに変わる。
約束なんて、言葉じゃなくていい。
目と目が合えば、それだけで世界は開く。
この夏、胸の奥で芽吹くものがある。
それはきっとーー
名前もない、けれど確かな「幸せの予感」。
まだ見ぬ世界へ!
こぼれ落ちた希望を
何度も胸の奥で拾い直す。
笑顔の裏に
言葉にできない孤独が棲んでいたとしてもーー
それでも私は
閉ざされた窓の向こうに
新しい風が吹くことを知っている。
まぶしさはまだ遠いけれど
この痛みすら、きっと道しるべ。
涙をひとつ置いて
私は歩き出す。
まだ見ぬ、あの世界へーー