灯月

Open App

夏の匂い

夕暮れ、風が頬をなでた瞬間
あの人の声が心にふっとよみがえった。

空はまだ少し迷っていて
雲の奥で光がじっと息をひそめている。
それでも私は、信じていた。
約束は、風に消えたりしないって。

胸の奥がざわめいていたのは
陽射しでも、記憶でもない。
きっと、運命の気配だった。

夏の匂いがした。
懐かしくて、少し切なくて
だけど、優しく包まれるような匂い。

私は今日も、静かに待っている。
心の中に、あの日交わした沈黙の言葉を携えて。

7/2/2025, 7:52:37 AM